●Pandora Cage ──君の瞳に在る牢獄
……クリスマスの夜。
アリアと章は美しいイルミネーションが輝く中、仲良くふたりで並木道を歩いていた。
ポツポツと降り始めた雪は、まるですべてを覆い隠すようにして、辺りを真っ白に染めていく。
そんな中、アリアは嬉しそうに章の顔を見つめ、今の自分が幸せである事を実感した。
章もそんな彼女が愛しいと思いながら、彼女の視線を感じるたび、優しく微笑みかけている。
しかし、眼鏡に当たる光が邪魔をして、章の瞳をハッキリと見る事が出来ない。
そのため、アリアはどうしても隔たりのない章の瞳が見たくなり、イタズラをするふりをして彼の眼鏡を奪い取る。
「そんな事をしたら、君の顔がぼやけてしまうだろ。悪いけど返してくれないか。もう少し君の顔が見たいから……」
苦笑いを浮かべながら、章が少し腰を屈めて、彼女の顔を見つめ返す。
だが、アリアは章の綺麗な瞳が見れたため、とても上機嫌な様子で、持っていた眼鏡を遠ざける。
「それじゃ、このくらい近づけば、見える?」
まるで吸い込まれるようにして章の瞳を覗き込み、アリアが愛しげな表情を浮かべてニコリと笑う。
瞳と瞳の距離は、数センチ。
彼の瞳には彼女が映っている。
彼女の瞳には彼が映っている。
……他には何も映らない。
瞳に映っているのは、愛する者の姿のみ。
「これじゃ、キスをしちまうから、余計に見えなくなってまうだろ」
アリアをからかうようにして、章がわざと唇を近づけていく。
しかし、アリアはまったく怯む事なく、まっすぐ章の瞳を見つめている。
「……本当にキスするぞ」
彼女の気持ちを確かめるようにして、章がゆっくりと瞼を閉じた。
「悪くないかも……」
アリアも章の気持ちに応え、同じようにして瞼を閉じる。
そして、ふたりの唇がゆっくりと近づき、……重なり合った。
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