佐鳥空・銀狼 & 高城・悠

●二人だけの世界結界

 夜空からヒラヒラと舞い降りる雪はクリスマスツリーの電飾に照らされながら地面へと触れた。
「やれやれ。みんなここぞとばかりにはっちゃけてるな」
 呟いた銀狼はパーティーの疲れを嘆息に乗せつつ苦笑する。別にツリーを見に出てきた訳ではない。ただ、気がつけばツリーの前にいたのだ。
「まったくだゾ。 気持ちはわからんでもないが、こう、なんて言うか……へくちッ」
「オイオイ。大丈夫か?」
 行動を共にしていた悠が同意したのもやはり疲れていたのだろうか。外気温の変化故か、くしゃみをした悠に声をかけながら銀狼は着ていたジャケットを脱ぐと、そのまま悠へと羽織らせる。
「ったく。その格好は寒いだろ?」
「ん……。けど、そういうお前だって」
 激しく降っている訳ではないとは言え、空から降るのは紛れもない雪だ。野外であれば気温も低い。
「俺大丈夫だ。 なんせ」
 気遣いを見せた悠に話しかけながら、銀狼は背後へとまわり。
「ッ!!? ぎ、銀狼?」
「こうすれば暖かいからな」
 悠を後ろから抱きすくめて悪戯っぽく笑った。まるで悠が驚く様を楽しむように。
「悠は暖かいな」
「……馬鹿者」
 銀狼の感想を耳にしてボソリと呟いた悠の表情は後ろからではほとんど見えない。
「そういえば、もう一年なんだな」
「……なにが?」
「何がって。……ほら、あれだ。ええっと」
 どれほどそうしていたか、ふと呟いた言葉に疑問を返され、銀狼は口ごもった。訪れた小さな沈黙。
「早い物だな」
「……そうだな」
 ふっと小さく笑うことで沈黙を終わらせて悠は呟き、つられる形で銀狼も表情を綻ばせる。抱きすくめていた腕の力が抜けたのは意図してのことだったか。
「なあ、悠。こっち向いてくれ」
「? どうし……」
 声に振り向いた悠の額に何かが触れる。それは銀狼の唇。
「メリークリスマス。 まだ言ってなかったと思ってな」
「ふ、普通に言えッ! な、なんでキ……キキ、キスする必要が?」
 狼狽える悠を見て楽しげな笑顔のまま銀狼は言葉を続けた。
「口のほうがよかったか?」
「ッ!?」
 この瞬間、悠の中で何かが切れた。
「この大馬鹿ッ!」
「ごふッ」
 キスのお礼に恐ろしく見事なボディーブローを貰った銀狼の口から吐息が漏れる。よっぽど効いたのか被害者は膝をついて蹲っていたが、悠にとってはどうでも良いことだった。
「まったく。人をからかうのも大概にしろッ!」
 赤面しつつ、蹲ったままの銀狼からそっぽを向くと鼻を鳴らす。
「な、なんてクリスマスプレゼントだ……まったく……」
 足元では銀狼が呟いていたが、まぁ自業自得なのかも知れない。それはツリーの光が照らす中という二人だけの世界結界で起きた小さな事件。




イラストレーター名:山鳥おふう