●聖夜〜天使達の休息〜
「るし君、お茶だけでも飲んでいきません?」
プレゼントを買って、食事をして、夜景を見て……クリスマスを二人ですっかり満喫し、慧奈を家まで送り届けた琉紫葵を、そう慧奈は呼び止めた。
勿論、深い意味なんて無い。自分を送ったせいで、体を冷やして風邪なんて引いたら大変だから、だから少し暖を取っていって欲しいと、そう彼を気遣っただけのこと。
でも琉紫葵の胸は大きく跳ね上がる。クリスマス、夜、彼女の家。琉紫葵はドキドキしながら彼女の家にあがった。
「るし君はそこで座って待っていてくださいねー」
美味しいお茶を入れてあげたくて奮闘する慧奈だが、疲れが出たのか動きに精彩を欠いていた。
「きゃあっ」
段差につまづいて転びかける慧奈を、とっさに抱きとめる。
「疲れたんですね。俺が入れますよ」
落ちた急須を拾うと、琉紫葵は紅茶の準備に取り掛かる。
慧奈は椅子に座り、台所に立つ琉紫葵を眺める。繊細な動きで紅茶を入れる恋人の姿と整った顔立ちは、いくら見ていても飽きることはない。幸せそうに目を細める慧奈の視線に気づいたのか、琉紫葵も優しい笑顔を浮かべる。
「今日はるし君と一緒で楽しかったです」
紅茶を飲みながら今日の出来事を楽しそうに話す二人だが、だんだんと慧奈の話すスピードは遅くなる。ついには椅子に座ったまま、ことんと眠りについてしまった。
「今日は色々回ったから……」
疲れたのかな、と呟くと、慧奈が起きないようにそっと抱き上げる。
ベッドに運んで毛布をかけてあげながら、そっと彼女の寝顔を見る。そのまま、静かに彼女の家を去ろうとする琉紫葵だが、その時、不意に彼の身にも睡魔が訪れた。ベッドを、目にしたからだろうか。体力の限界に達していたのは、琉紫葵も同じだったのだ。
「ん……」
起き上がらないと。……でも起き上がれない。
仲良く眠りに沈んだ二人。その手は自然とつながれていた。窓から差し込む月光が二人を照らす。その光は、右手の薬指にある指輪を、優しく照らし出していた。
翌朝、目を覚ました二人がどんな顔をしたのか……それは、彼らだけの秘密である。
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