風魔・姫耶呂羅院 & アリスティド・ブリュアン

●タイショー浪漫でクリスます

 吐息曇る寒さの中でも、クリスマスともなれば街を歩く人は多い。街はイルミネーションの光に溢れ、まるでこの季節を待ちわびたかのように活気に溢れている。
「ふ、ほほはんほ……」
 とはいえ、姫耶呂羅院やアリスティドの様な姿は他に見受けられなかった。聖夜の町を練り歩く、書生さんとはいからさん。串団子を食す格好に道行く人が振り向いても、二人は全く気にしない。ただ、団子を食べながらクリスマスイルミネーションを眺める。
「……ふぅ」
「今更ますが……」
 一串食べ終えて一息ついた姫耶呂羅院へと目を向けながらアリスティドは呟いた。丁度こんなタイミングで、すぐ後ろを腕を組んだ男女が幸せそうに通り過ぎて行く。
(「今更ますが、どうしてクリスマスにボクはキャロとオダンゴ食うしてるのましょうか」)
 胸中で続けた呟きに答えは何処からも返ってこない。ガサリという音に姫耶呂羅院が次の団子を取り出したことを知り、アリスティドは自分の串団子を口元へ持って行く。
(「日本ではアヴェックと過ごすの日のはずますが……」)
 美味しく団子を頂きながら、再度心の中で呟いた言葉を肯定するかのように、また一組の男女が通り過ぎる。
「あっ」
 そこで思わずアリスティドは声をあげる。
(「ならキャロとケッコンするすればいいじゃない」)
 脳裏に凄まじく良いアイデアが浮かんだからだ。
「ケッコンするしましょう!」
 突然張り上げた声に、周囲の通行人が振り返る。一斉に。
「はいはい、あと四年後ににゃ」
 もの凄い数の視線を受けつつも、姫耶呂羅院は半分呆れ、半分笑みを浮かべた顔で、ひらひらと手を振った。
 そして、串団子を一口。視界をよぎるのはイルミネーションとは別の、ちらつく白い色。
「あ、雪だね」
 団子をくわえたまま、姫耶呂羅院が手を伸ばす。それに雪はあっさりと溶けて。
「帰化してもいいます!」
 軽くあしらわれているような気がしつつも、アリスティドは団子の欠片を飲み込んで更に一言。
「帰化したら……アリス・鰤?」
「キミの黒髪がスキダ! キミの泣きボクロがスキダ! キミの色黒の肌がスキダ!」
 首をかしげる姫耶呂羅院へ、ノリと勢いで畳み掛けるようにアリスティドは好意を言葉にする。
「イチバンスキなのはムネ……ムネ……いえ……ダテマサムネだ!!!」
 うっかり本音っぽいモノがそこはかとなく飛び出しかけて、何とか言い繕うが、それはそれ。
「確かに、独眼竜の兜はなかなかイカしてるからのう」
 降り出した雪の中、一つ頷く姫耶呂羅院。アリスティドの求婚はこの後しばらく続いたらしい。冬の夜空に男の声が響き渡る……そんなよく分からないクリスマスが、賑やかな街の中に存在していた。




イラストレーター名:meg