宍戸・航汰 & 花邑・ニル

●渚のクリスマスキャロル

「航汰さん、航汰さん、蝋燭作り楽しかったですね♪ 航汰さん型キャンドルを作れなかったのは残念ですが、この前に手順を覚えたから、今度は自分で作ってみようかな。灯台に飾る皆さんの形のキャンドル♪」
 夜の波打ち際、航汰の前を歩きながら、ニルが幸せそうな表情を浮かべる。
 海のむこうの彼方に浮ぶ人工島から、美しい夜景を眺めつつ、今日の出来事を思い返した。
「ああ、そうだね」
 彼女の後ろをのらりくらりと歩きながら、航汰が相槌を打ちつつ、今日の幸せな一時を反芻する。
(「あァ、ホント。イイ人達と出逢えて良かったな」)
 その事を思い出しただけで、珍しく穏やかな微笑を浮かべる、航汰。
 それだけ楽しい一日を送る事が出来た証拠だが、まだすべてが終わったわけではなかった。
「それでは航汰さん、ニルからのプレゼントです! じゃじゃーん、星マークの紺色鉤編みマフラーです」
 満面の笑みを浮かべながら、ニルが星のマークが刺繍された紺色鉤編みマフラーを航汰に渡す。
 航汰も彼女からマフラーを受け取り、軽く頬を染めてから、
「それじゃ、俺からも……」
 と言って小さくコホンと咳払いをした後、白樺の木で出来た小さなオルゴールを彼女に手渡した。
「……ほへ、ニルにも頂けるんですかっ?? わ、わぁぁ!! か、可愛いオルゴール!! どうしよう、航汰さん。う、嬉しいです」
 まるで小さな宝物を手に入れたかのような雰囲気で、ニルがオルゴールを持って歓喜する。
「ば、馬鹿じゃねェの。大袈裟なんだよ、うっせェ騒ぐな」
 予想以上に彼女が喜んでいたため、航汰が嬉しさと焦りが入り混じり、戸惑った表情を浮かべて踵を返す。
「あ、あれ? 航汰さん、待って下さい〜! 御礼を言わせて、航汰さん!」
 大切そうにオルゴールを持ちながら、ニルが赤く頬を染めて航汰を追う。
「うっせェな、早く来い!(心の声:誰が待つかよ、掴まったら絶対礼責めじゃねェか)」
 それでも航汰は立ち止まる事なく、ポケットに両手を突っ込み、照れた表情を浮かべて怒鳴る。
「……もう、止まってくれないならいいです!」
 そう言ってニルがくるりと海に向き直り、大きく息を吸い込んだ。
「航汰さん、有難う! わたし、航汰さんの事大好きです!!」
 耳を塞ぐほどの大音量。
 さらに航汰の顔が真っ赤になる。
「アホだろ、お前!!」
 そのため、航汰は自分の気持ちを誤魔化すようにして、彼女に負けない大声でそう叫ぶのだった。




イラストレーター名:ヤガワ