カイト・クレイドル & 歌胤・カリン

●願いを君に

 クリスマスの夜。人の姿が消えた教室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
 徐々に冷たくなる空気に触れ、カイトは思わず「はーっ」と息を吐き出した。冬の夜が寒いのは当たり前とはいえ、今夜は特に冷え込みが強いように思う。
「……カリンはまだかな」
 待ち合わせの時間までは、まだ少しある。カイトは彼女が現れるのを待った。
 あの、独特なリズムで響く足音が聞こえてくるまで。

「クリスマスに呼び出されるなんてびっくりっスね……!
 その頃、カリンは教室に向かっていた。廊下を歩く彼女の姿は、いつもと何も変わらないように見える。でも、カリン自身だけは、自分の胸が早鐘を打つかのようにドキドキしているのを知っていた。
 約束の教室の前で立ち止まって、一呼吸置いて扉を開ければ、中で待つカイトが顔を上げた。
「待たせたっスか? でもカイト、あたいに用って一体何っスか?」
「いや、えっとその……」
 壁から離れて、入ってくるカリンと向き合ったカイトは、右手に握り締めていた『それ』を取り出した。
「……これ。いつものお礼。あとオマエにあえてそろそろ1年だから、そのお祝い」
「そっか、あれから1年になるのか……早いっスね〜」
 カイトの言葉に、ふとそれに気付いて感慨深そうに笑うカリン。
 その表情にカイトは「あと、それから、えっと……」と呟くが、首を傾げて怪訝な顔をする彼女に、「いや、なんでもない」と首を振る。
「……メリークリスマス!」
 そして、そう言って改めてプレゼントを差し出したカイトに、カリンは「ありがとうっス!」と満面の笑みと共に飛びついた。それはカリンにとって、良くも悪くも素直な感情表現なのだけど……。
 ふわっと揺れる髪の毛に鼻腔をくすぐられ、制服越しに柔らかな感触を思いっきり感じさせられてしまう側としては、たまったものではない。
(「くそう、なんでこいつこんなに感情表現が大胆なんだよ……!?」)
 飛び跳ねそうになる胸に、鎮まれと言い聞かせて。でもこれがカリンらしさかとカイトは苦笑する。
「来年もその次の年も、銀狼の騎士団を宜しく頼むっスよ! あ、ついでにあたいも仲良くしてね!」
「ついでかよ。……来年もよろしくな」
 僕は、ずっとオマエのこと……銀狼のこと、守るつもりだから。
 そう小さく付け足したカイトの目の前には、窓の外から射し込む月明かりに照らされて、満面の笑みを浮かべるカリンの姿があった。




イラストレーター名:熊虎たつみ