●holy night
……ふと。克己は溜息をついた。
クリスマスの夜。身内とのささやかなパーティを終えた後の、ゆるやかな時間。
ソファにゆったりと腰かけながら、ふと思う。
「飛刀と出会ってからもう一年か……早いものだ」
暖かい湯気を放つココアを見ながら、思いふける。
飛刀には感謝してもし足りないな……などと考えながら。
「そうか……もう、一年か……」
飛刀も、隣の克己の体温を感じながら、そう呟いた。
今まで生きてきた十数年より充実していた一年かもしれない、と飛刀は思う。
学園に入学して、初めて仲間ができ、家族ができ……人の温もりを知ったのだと。
クリスマスという欧米の風習はまだなれないけど、皆と楽しく過ごせる時間は何よりの幸せだとも思う。
何より……隣に、克己がいる。
克己のいれたココアを一口飲むと、疲れた身体に甘く優しい温かさが広がっていく。
心地いい温かさに、ふと隣の克己の手に自らの手を重ねて。
今日はとてもいい一日だったな……と、そんな事を考える。
自分の手を強く、優しく握り返す……克己の手の感触を感じて。
「……ん?」
トン、と。軽い感触を克己は肩に感じた。
そこには、目をつむって寄りかかる飛刀の姿。
寝てしまったのだろうか……克己は起こさないように、ゆっくりとココアを机に置く。
飛刀の幸せそうな……やすらいだ寝顔を見ていると、自然と克己の顔にも笑みが浮かんでくる。
湧きあがってくる、幸せな……暖かい気持ち。
克己は、この感情が「好き」だとか、「恋」だとか、あるいは「愛」だとか。そういう類のものだと知っている。
知っているけれど、そんな言葉よりも、もっと尊いモノのような気がして。
それを表せる言葉を持ってはいないけれど……。
「よ……っと」
器用に足と腕を使って、布団を引きよせる。
その毛布を、起こさないように……ゆっくりと、飛刀にかけて。
克己は、飛刀の寝顔をゆっくりと眺める。
大切な人が、自分の隣でこんなにも安らいだ寝顔を見せてくれている。
その事実に……とても、幸せそうな微笑を浮かべながら。
二人だけの……とても、とても安らいだ時間。
それは永遠ではない一夜の幸せだけれども。
その幸せを、二人は思い出という永遠に切り取って。
……今はただ、この幸せを感じていたのだった。
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