●Il momento che ottiene piu vicino
クリスマスパーティーの帰り道。
すっかり暗くなった漆黒の空からは、音もなく静かに純白の雪が舞い落ちている。
「行こうぜ、バス停まで送るよ」
カナデにかける暁の言葉は、彼女に対する優しさと。
そして……一緒に居られる時間を、少しでも長く伸ばしたかった。
そんな本心から出た申し出であった。
カナデも、一人で帰れなくもないが送ってくれるなら、と。彼の隣を歩き始める。
今日の彼女はパーティー用におめかしをし、髪もアップに結い上げている。
何だかそんな彼女がいつもよりもグッと大人っぽくみえて。暁は思わずその瞳を細めた。
「えーっと、今日は付き合ってくれてありがとな。凄く楽しかった」
ちらりと様子を窺うようにカナデを見つつ、声を掛ける暁。
「断る理由もなかったからねー」
だが返事は返すものの、何だかちょっぴり上の空なカナデ。
近いようで、遠いような。縮まったようで、変わってないようにも思える――カナデとの、距離。
まさに今自分のすぐそばには、カナデ本人がいるというのに。
感じるその『距離』が、どうしようもなくもどかしくて。
彼女の手を取りたい気持ちとは裏腹に、暁はどうしてもあと少し腕を伸ばすことができないでいた。
そんな暁の心境を知らないカナデはバスを待ちながら、そっと目をこする。
(「はしゃぎすぎたかな、ねむい……」)
日本のクリスマスパーティーは終わったらそれまでのため、少し寂しく思うところもあるが。眠気の襲ってきた彼女のトロンとした瞳が、パーティーをそれだけ満喫し、楽しんだことを物語ってもいたのだった。
暁は、そんな眠そうな彼女の様子に気がつく。
(「俺はカナと一緒で楽しかったけど、ちょっと付き合せ過ぎちゃったかな」)
ふっと雪と同じ白い息を吐き、カナデに一歩近づいた暁。
そして――大きくて温かな彼の手が、カナデの頭にふわりと触れる。
「眠そうだな、お疲れ様」
そんな労いの言葉と同じくらい優しく、暁は彼女の頭をそっと撫でた。
不思議と安心感を覚える暁の手の温もりを感じ、カナデは眠さを増す感覚に陥りながらも。
まだ正直、友達の範囲……ではあるけれど。
暁に対して、少し心を許し慣れてきた自分に、ふと気がついたのだった。
バスがくるまで、あともう少しだけ。
白い雪の舞う中でお互い小さく笑みを宿すふたりのクリスマスは、まだ終わらない。
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