覚羅・葵 & 相馬・真理

●Shall We Dance?

「ね。今、ココで、踊っちゃい、ません、か?」
 そう真理が口にしたのは少し前のこと。
「じゃあ、この辺りで踊ろうか。実は俺もなんだか凄く心が浮き上がってたんだ」
 この時葵は笑みを零すと真理の申し出に応じた。あれは、銀誓館学園のクリスマスパーティーでの出来事。過去の光景が何気なく今に重なるのは、二人が居るここもまたクリスマスリースとイルミネーションに彩られた木の下であるからだろうか。
(「クリスマスリースやイルミネーションも綺麗だ」)
 葵は胸中で呟きながらリースとイルミネーション双方へ向けていた視線をゆっくりとそらす。
「えへへ……」
 移動した視線の先には真理が居て、嬉しそうに微笑む姿は葵の心を自然と弾ませた。
「じゃあ、踊ろうか」
 差し出した手を握る真理の温もりを感じながら、木の下でダンスを。葵は婚約者の手を引いて、少し強引にエスコートした。
「葵くん、葵くんっ」
 必死についてくる真理を悪戯っぽい笑みと共に見つめれば、微笑みと共に当人が声をかけてくる。
「今、ね……すっごく、楽しくて、幸せ、です、よ! 葵くんの、おかげ、ですっ」
 感謝の気持ちを言葉と視線で。
「やっぱり真理が、俺の一番、だよ」
 若干ペースを落としながら葵も微笑む。人気のない場所で二人だけのダンスパーティー。だからここは二人だけのダンスホール。
「真理と一緒だと、幸せな思いがいっぱい、いっぱい溢れてくる」
 時間も、音楽も、作法も。何も必要はない、ただ二人の呼吸が合えば。愛しい人さえ居るのであれば。
(「……葵くんとまたこうして、クリスマスを過ごせるなんて」)
 幸せが、時間と鼓動と共にあった。夜空の下ステップを踏み、身体が揺れる度に真理の髪が、リボンが揺れて。どれほど踊り続けていただろうか、名残惜しむように続いたダンスもやがては終わりを迎えた。
「葵くんが、傍にいて、くれるの……スゴク、幸せ、ですっ。葵くん……大好きっ♪」
 もっとも、二人のデート自体が終わった訳ではない。ダンスが終わるなり真理から急に抱きつかれ、微かに驚いた葵の顔が笑みに変わるとゆっくりと近づいてくる。
「俺も、だよ」
 お互いが目を閉じたままだったとしても、温もりと感触は伝わる。だから、幸せは終わらない。
 



イラストレーター名:水名羽海