黒桜・夢洸 & 田中・ひろみ

●お料理 in Aqua Auin

「ふぅ、こっちもこれで完成です」
 耳を落とされ対角線を切られた四角いサンドイッチが四つの三角形へと姿を変え、皿へと盛りつけられて行く。夢洸とひろみ、二人の居る洋風のキッチンは結社の施設で、今まさに完成したばかりの料理も結社員の為のものだ。
「ひろみさんて結構手先器用なんですね」
「料理はここ数年で慣れたのですよー」
 パンを潰すことなく切り分ける手並みを覗き込んでいた夢洸の一言に、ひろみは少しだけ得意げに微笑んでサンドイッチの皿を次の調理の邪魔にならないよう調理台の奥へと押しやった。次に取りかかるのは揚げ物だ。下味を染み込ませておいた鶏肉に、かたくり粉の方も既に用意は出来ている。試しに片栗粉のカスを揚げ物用の鍋へと落とせば、中の油は充分熱くなっていることを教えてくれた。そろそろ頃合い。
「夢洸せんぱいは得意なお料理ありますか?」
「これさ」
 鶏肉にかたくり粉を眩しせながらひろみが問うと、夢洸は口元を微かにほころばせわっぱに入れたシャリとまな板の上にでんと置かれたマグロやサーモンの固まりを示す。
「お寿司ですかー」
「ふふふん、男の握り寿司はだな……」
 感心したような調子の声に気をよくしたのか、夢洸はもともと寡黙であったと言うことを疑いたくなるほど饒舌にうんちくを語り始める。
「さてと」
 無論、手は休めずに。見事な包丁捌きで固まりからネタを切り出すと、親指のですくい取ったワサビを触れさせ握ったシャリと一体化させた。口を動かしつつも目は真剣そのもの。
「凄い、わたしも頑張りますね」
 次々完成して行く寿司に小さく息を呑むと、ひろみも鶏肉を鍋の中へ投じて行く。揚げ時間は一分半から二分ほど。
「おっと」
 その間にオーブンが夢洸を呼んで、中から湯気を上げるピザが取り出された。
「できました」
 網の上に移され、充分油を切ったところでひろみの菜箸が唐揚げを皿の上に乗せて行く。あとはレタスとクシ切りにしていたトマトを添えれば、また一品料理が増える。
「いやー、うまそうだなー」
 料理が出来上がりほっとして。唐揚げをの皿を両手に持ち上げたとたん、横から声が聞こえた。
「あっ」
 止める暇もなく、揚げたての唐揚げが一つ皿の上から消えていた。つまみ食い、向けられた視線は咎める為のものと言うより食べる相手を心配するような視線。ただ、食べる方は視線も気にならないのか空腹だったのか摘んだ唐揚げをそのまま口の中へと。
「……熱いけどうまいよ」
 咀嚼の後につまみ食いの現行犯が口にした一言だった。昔はおにぎりしか握れずとも今は違う、そう言うことなのだろう。
「楽しいクリスマスにしましょうね」
「そうですね! 楽しく過ごしましょう」
 相変わらず向けられたままの視線を誤魔化すように夢洸が口を開けば、我に返ったひろみの口からも同意が返る。一生懸命に二人が作った料理は完成したのだ。作った料理を味わう時間がこの後には待っている。料理を運びキッチンをあとにする二人を硝子窓が映し、窓の外にはクリスマスのイルミネーションが瞬いていた。




イラストレーター名:天がい