マルメロ・リンヴィス & 若宮・草士郎

●貴方だけの為に雪よりも白く

 靴音はまるで主の心情を表すかのように微かに硬く、廃墟と化した教会の床に響いた。その硬さは僅かな緊張の微粒子。
「……草ちゃん」
 割れた硝子窓から吹き込む雪混じりの風に羽織った上着の裾を揺らしながら、マルメロは繋いだ手の先にいる恋人を呼んだ。廃墟となり明かりの灯らぬ教会内だ、やや薄暗くはあったがそれでもお互いの姿はハッキリと見えていた。
「ここは……」
 手を繋いでやって来た場所、教会の思い出をマルメロは語り始める。荒れ果ててはいるが、静かで落ち着いた彼女の隠れ家。元々はフランケンシュタインの花嫁として過ごしていた時の思い出の場所でもあったと。
「黒以外を着たのは……初めて、似あうかな?」
 そこまで語り終え、微かに頬を染めてマルメロは恋人の前に現れた。いや、元々居て羽織っていた上着を脱いだのだ。現れた白いゴシック調のドレスに飾られた赤い薔薇は鮮やかでドレスに映え、ドレスもまた薔薇の赤によって白が引き立っている。
「あぁ、とても似合うよ」
 そんなドレス姿の恋人へ草士郎は言葉を送った。口数は少ないが、いつものこと。ただ、いくら口数は少なくても草士郎はマルメロの欲しい言葉をくれるのだ。だからこそだろうか、嬉しさが声にも溢れる。
「一緒に、これからもずっと同じ時を歩んでくださいね」
「勿論、俺のお姫さま」
 笑いかけるに草士郎は笑顔で応じた。それは二人だけの約束。
「あ、ちょっと待って」
 言葉を交わしあい、互いに見つめた顔の一つが何気なく口にしたのはこの直後。マルメロは取り出したオルゴールのネジを巻くと、蹴飛ばさないようにうっすら雪の積もった窓枠に置いた。流れ始めたメロディは、二人の為だけのもの。音楽があり二人がいれば、所々草花が生えた廃墟もダンスホールへと変わる。
「踊りましょうか」
 そう口にした訳でもないはずなのに、二人は踊り始めていた。緊張からかぎこちなさがどことなく見受けられたダンスも、少しずつ歩調は合ってゆき。
「マルメロ」
 草士郎に呼ばれた気がして顔を上げればすぐそこに恋人の顔がある。次第に整い揃いつつあるリズムに二人の気持ちが重なるようで。
「これから二人で歩んでいこう」
 ダンスの歩調も二人の気持ちも約束の言葉のようにここから新たな道が始まるのかも知れない。同じリズムで歩き始めた二人の先に待つのが、どんな未来であるのかはまだわからなくても、並んで歩く道はまさに今踊っているダンスのようにとても楽しいのだから。




イラストレーター名:笹丸ケイジ