イセス・ストロームガルド & 守崎・汐音

●その笑顔が何より誰より好きだから

 一本の大きなモミの木の枝に、実のついたセイヨウヤドリギの枝を飾り、近くの木に鳥籠のランタンをかけて灯かりを点した。
 その下でイセスが汐音を抱き締め、優しく口付けをかわす。
 汐音も恥ずかしそうに頬を染め、お返しとばかりにイセスの唇を塞ぐ。
 とても照れ屋な汐音から、精一杯のキス。
 その重さを誰よりも分かっているイセスは、彼女のキスを受け止めながら、静かに瞼を閉じてふたりが出会った一ヶ月前の事を思い返す。
 それは、知人や友人にもみくちゃにされているイセスの姿を見て、その輪に交じった汐音が微笑んだ時の事。
 その微笑みに魅了され、イセスは彼女に恋をした。
 ……気がつけば自分の事を少しでも彼女に知って欲しくて、学園に来た理由や、家族の事を話していた。
 彼女もその話を聞いて微笑みを浮かべ、静かに自分の事を語ってくれた。
 そこまで考えて、イセスが重要な事に気づく。
 以前と比べて汐音があまり微笑まなかった事を……。
(「何とかして、汐音ちゃんに想いを伝えないと……」)
 時には照れ隠しに怒らせ、時には恥ずかしさに赤面させ、時には空振りして呆れられ……。
 しかし、いつの頃からか、彼女が微笑まなくなっていた。
 単なる気のせいかも知れない。
 それでも、自分の想いだけは伝えねばならない、と思った。
「汐音さん」
 静かに汐音が唇を離す時を待ち、イセスが恥ずかしさに俯いた彼女に、言葉を投げかける。
 そして、いま感じている愛しさと幸せを、すべて込めた微笑みで、彼女を迎え……。
(「笑って、汐音さん。その笑顔が何より誰より好きだから」)
 あえて口には出さない。
 例え、言葉にしなくとも、彼女に想いが伝わるはずだから……。
 心の中で願うのは、恋した人が浮かべる聖夜の微笑み。
 汐音はその気持ちに応えるようにして、まるで華が咲きほころぶような、優しく淡いとびっきりの笑顔を浮かべるのだった。




イラストレーター名:水名羽海