●狐サンタの贈り物
クリスマスの夜。
真夜中の病院。
人気の無くなった廊下に映る人影。
病院の消灯時間は、とっくの昔に過ぎている。
現れたのは和風サンタ姿の七歌。
七歌は、一人きりで寂しい思いをしている弥生を元気付けたいという思いと、クリスマスの夜くらい、大好きな人と一緒に過ごしたい気持ちが強まり、彼女の病室まで足を運ばせた。
ちなみに前者は建前で、後者が本音……。
もちろん、本音は口が裂けても、言わない……つもり。
「誰も……いないわね……」
きょろきょろと辺りを見回し、まわりの安全を確認。
ここで誰かに気づかれれば、ミッション失敗。
辺りに誰もいない事を確認し、抜き足差し足で弥生の病室へ。
「……メリークリスマス」
こそこそとした様子で、七歌が病室に入っていく。
その途端に弥生がビクッと身体を震わせ飛び起きる。
「だ、誰!?」
当然の反応。
ここで『怪しいものじゃない』と答えたとしても、絶対に疑われる状況。
まわりの明かりが消えているので、弥生のいる場所から、七歌の顔を確認する事は出来ない。
「わ、私よ」
そのため、七歌も素直に答える。
ここで嘘をついても、状況が悪化するだけ。
素直に答えた方が、身のためである。
「……七歌?」
確認するようにして、弥生が七歌の顔を覗き込む。
よく顔を見る事が出来ないが、言われてみれば、七歌の声である。
「当たり♪」
満面の笑みを浮かべ、七歌が布団の中に入っていく。
七歌が自然と布団の中に入ってきたため、弥生も戸惑う事なく受け入れた。
看護士の巡回で見つかるとマズイから、という理由で、布団の中にしっかりと潜り込む。
一緒に布団の中に入って、楽しげな会話をする、ふたり。
久しぶりの再開だった事もあり、時間を忘れて話し込んだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、ひと時の別れ……。
しばらくの間、見つめ合い。
そして……、どちらからともなく、そっと口付けを交わす。
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