佐々・ささら & 李・太煉

●クリスマス「でも」甘えていたい

「うーん、まだかなー」
 公園の中央、イルミネーションの光を受けながらもいつも通りに針を動かす時計を見上げ、ささら手を組み直す。白い吐息はゆっくりと広がって、やがて薄まり透明になって消えて行く。12月24日はクリスマス・イブ。だからこそだろう、公園内にはイルミネーションの光が溢れ、幸せそうな恋人達がこの時期限定の美しい景色を寄り添いながら楽しんでいる。
(「……いいなぁ」)
 ささら自身も、そんな周囲を歩くカップルの一組になるはずだったのだ。いや、これからなるのだろう。何故なら、ささらは恋人の太煉と待ち合わせをしているのだから。約束の時間が過ぎているなんて些細なこと。そう、気にしない。
「……時間、ボクが間違えちゃったかな」
 はずだった。それでも不安になるのは1人だからなのか、それともこういったデート自体がささらにとって「はじめて」であるからなのか。再び口から白く曇った息が漏れ、視界を微かに曇らせる。時計と公園の入り口を交互に幾度か見やって、ささらは目を閉じ、俯いた。
「(たーりゃん、……太煉君)」
 思わず漏れた小さな呟き。
「ウム……遅れてすまナイ」
「え……」
 小声で恋人の名を呼んで、聞き覚えのある声に思わず硬直する。
「たーりゃん!」
「待たせテしまっ……」
 瞳を開ければ待ち望んだ恋人の姿があって、ささらは思わず太煉を抱きしめた。
「ささら?」
 恋人の身体を受け止めつつも、流石にいきなり抱きつかれて少々面を喰らった太煉だったが、ささらの勢いは止まらない。いつもなら太煉に屈んで貰わなければ出来ないキスも何故か都合の良いことに存在した段差が可能にする。
「えへへ……」
 連続の不意打ちに思わず頬を染めた太煉へ更に赤い顔でささらは微笑む。安堵と温もりに抱かれて。
「サテ……まずはどうするかナ」
「えっとね、一緒に歩こ?」
 抱きしめたまま、恋人に提案をしたのはもう少し温もりを感じていたいから。1人の時間がもたらした反動故かもしれない。
「了解ダ」
「うん! じゃあ、あっち行こ」
 承諾した恋人と腕を組んでささらは複数伸びた道の一つを指さす。待つ間に通り過ぎた男女の内一人が口にしていたのだ。その先のイルミネーションは特に綺麗だと。
 二人のクリスマスは始まったばかり、だからこそクリスマスは甘えていたい。組んだ腕を少しだけ引き寄せてささらは太煉の腕に頬を寄せた。




イラストレーター名:あにゅ