御神楽・霜司 & 草壁・志津乃

●穏やかに過ぎ行く心地良き時の中で

 夜の帳が降りて、夜空に星が瞬き始める頃。
 静かに時が流れる中、ふたりは屋外の喫茶店で待ち合わせ、一緒に仲良く席に座る。
「これ、お約束の……」
 緊張した表情を浮かべ、志津乃が霜司に箱を渡す。
「ああ、すまんな。早速頂いて良いか?」
 霜司はそれを受け取ると、確認するようにして、志津乃に視線を送る。
「勿論です」
 彼女の答えを聞いてから、霜司が箱に結ばれたリボンを解き、ゆっくりと蓋を開けた。
 その箱の中に入っていたのは、コーヒーの色と香りに包まれたブッシュドノエル。
「ほぅ」
 思わず霜司の口から溜息が零れる。
 霜司は傍にあったケーキナイフを掴み、丁寧にブッシュドノエルを切り分けていく。
「では、頂きます」
 どきどきとした様子で見つめる志津乃の視線に気づき、霜司が苦笑いを浮かべて一口サイズに切ったケーキを口まで運ぶ。
「ん。美味いな」
 決して甘すぎず、ほろ苦さがちょうど良い塩梅の味わい。
 これなら食べ易いと、しばらく黙々と食べ進める。
「ほっ、良かった……」
 志津乃がホッと胸を撫で下ろす。
(「流石に一人では食べ切れないな。それに……」)
 ふと何か思いついた様子で一口すくい、霜司が微笑みを浮かべて、志津乃にすっとケーキを差し出した。
「お前もどうだ?」
 その言葉を聞いて、志津乃の顔が赤くなる。
「え……あの、その……。せ、先輩に差し上げたのですから。私は良いです……」
 遠慮がちに小さく首を横に振り、志津乃が丁重に霜司の誘いを辞退した。
「それなら仕方ないな」
 少しつまらなそうな表情を浮かべ、霜司が所在なさげな手を戻す。
 何となく霜司の意外な一面が見えたため、志津乃が思わずくすりと笑う。
「ご馳走さん」
 ゆっくりと両手を合わせ、霜司が彼女に一礼する。
 志津乃も『お粗末さまでした』と答え、霜司に優しく微笑み返す。
「又何か食わせてくれると嬉しい。お前とこうしているのは嫌いじゃない」
「あ……はい……喜んで」
 霜司の言葉に、志津乃が頷く。
 そして、ふたりは一緒にいられる事が幸せで、楽しく思えるこの瞬間に感謝した。




イラストレーター名:釈氏トオル