古原・拝音 & 竹下・瑛実

●深緋に染まる満天星躑躅

 銀誓館学園を卒業してから、拝音は瑛実と一緒に過ごす事が増えた。
 そして、迎えたクリスマス……。
 ふたりは純日本家屋の座敷にいた。
(「……まさに和装クリスマスパーティといったところか」)
 拝音は生まれて此の方、クリスマスという行事には、あまり馴染みがない。
 そのせいか、座敷机の上には、抹茶ケーキや、上生菓子、抹茶の椀などが置かれている。
 だが、こんなふうに菓子に囲まれ、ふたりで他愛の無い事を話して過ごすのも、それほど悪くないと思った。
(「一体、何を考えているんだろう。先輩の考えが読めない……」)
 困った様子で汗を流し、瑛実が拝音に視線を送る。
 逆に瑛実は拝音の考えを読む事が出来ずに困っていた。
 拝音はいつも穏やかで、誰にでも優しい性格。
 そのぶん、表情だけでは彼の考えを読む事が難しい。
 巷では恋人達の行事として定着しているクリスマスだが、あまり馴染みのなかった拝音が、それを理解している可能性は低かった。
 だからと言って瑛実の方から、その事を告げるのは……、何か違う。
 それにおうちデートと言う事もあって、彼女もかなりドキドキしているので、そこまで言えるだけの精神的な余裕も無かった。
「どうかしたのか?」
 ゆっくりと彼女を眺め、拝音が穏やかな笑みを浮かべる。
 彼女と一緒にいると、何故か気持ちが落ち着いた。
 それだけ彼女に心を許している証拠なのかも知れないが、自分でもはっきりとした事は分からない。
 しかし、彼女と一緒にいるだけで楽しい気持ちになり、その笑顔を見ているだけで嬉しい気持ちになった。
「今年もお疲れ様でした」
 まるで大晦日のような挨拶をした後、瑛実が笑顔を浮かべる。
 このまま甘えていてもいいのか、少し不安になる事もあるが、好意の理由に証が欲しい訳ではない。
 居心地の良さに自分から背を向けるのが辛い時もあるが、結局そこから逃げる事が出来ないのだから……。
「ああ、来年もよろしくな」
 彼女の気持ちに応えるように、拝音がニコリと笑う。
 時々、彼女が物思いに沈んだような表情を浮かべるようになってから、拝音は少しでも喜んでもらえるように今回の洋風茶会を準備した。
 何をすれば彼女が笑顔になってくれるのか、未だに良く分からないが、どうやら楽しんでくれているようである。
 せめて彼女の幸せが途切れないように、今だけでも頑張ろうと拝音は思った。




イラストレーター名:銀木