九曜・沙夜 & アガート・ブリューナク

●緩やかな夜

 学園のパーティでワルツを踊った後、沙夜はアガートの部屋に行った。
 部屋の灯りが落とされている代わりに、蝋燭とスタンドの明かりだけが灯っている。
 テーブルの上には、ふたりで用意した食事の名残……。
 ふたりで過ごす初めてのクリスマス。
 そこで話題になったのは、先程まで踊っていたワルツの事。
 アガートにとって初めてのダンスであったが、踊っている時は永遠にも感じ、終わってみれば一瞬だったと感じてしまうような不思議な感覚……。
「会場でも言ったが、本当に綺麗だったぜ。あんなに綺麗な沙夜と踊れて本当によかった」
 今までのアガートならば、クリスマスに特別な意味など無かった。
 この時期になると決まってカップル達が愛を囁き合っていたが、自分にはまったく関係のない事だと思っていたので、まったく興味を持っていなかったのだから……。
 だが、今年からは特別な日になった。
「アガートも、凄く格好良かったわよ? 見惚れて、ステップを間違いそうだったくらい」
 大き目のソファに腰掛けたアガートの膝の上に乗り、沙夜がウットリとした表情を浮かべる。
 少しでも彼の傍にいたい事の表れなのか、身体を密着させたまま離れようとしない。
 彼女はとても幸せだった。
 アガートと触れ合ったところすべてが……。
 それどころか心まで彼の温もりで満たされそうなほどである。
「足も踏まずにすんだし、少しは練習した甲斐があったかな。……来年も、ワルツを踊ってくれるか?」
 膝の上に座った沙夜が滑り落ちないように抱き寄せ、アガートが触れ合う温もりを感じていた。
「もちろんよ。その腕の中は、私の指定席でしょう?」
 含みのある笑みを浮かべながら、沙夜と熱い口付けをかわす。
 『これから先もずっと、こうしていられたら良い』と願いを込めて……。
「今日を特別な日にしてくれた沙夜に、幾万もの感謝を。そして、変わらぬ愛を」
 そう言ってアガートが再び沙夜と熱い口付けをかわすのだった。




イラストレーター名:銀木