●全てのものに感謝を
「さて、アルブレヒト様……今度はどちらにエスコートしてくださいますの?」
結社の仲間と出かけた素敵なカフェの帰り道。
その余韻も抜けぬうちに聞こえてきた言葉に、アルブレヒトの鼓動が跳ね上がる。
それが隣を歩くみやびの発した言葉だと理解するのに数秒。
自分に向けられた言葉であると理解するのに、更に数秒。
自分のクリスマスが。
みやびのクリスマスが。
2人のクリスマスが今始まったのだという事を理解するのは一瞬。
「まさかクリスマスに女の子を連れ出しておいて、喫茶店だけという事はないのでしょう?」
その言葉に、アルブレヒトの頭に血が昇っていくような感覚が走る。
「え? え? で、でも僕たち結社のみんなと……っていつの間にか二人っきりになってるー!」
そう、気づけば其処にいるのはアルブレヒトとみやびの2人だけ。
こういう時、どうすればいいんだろう?
グルグル廻る思考。
何も考えられない中で、やっと紡ぎ出した言葉。
「じゃ、じゃあ……あの、メイン会場のツリーを見に行きましょうか?」
アルブレヒトの精一杯に、みやびは微笑しながら答える。
「はい……みやびはどこへでもお供いたしますわ♪」
腕を組んでくるみやびに、アルブレヒトはドキドキする。
普通、こういう場合は男女の役割が逆な気もするけれど。
みやびの声が自分を緊張させつつも、落ち付かせてくれる。
組んだ腕の温かさに紅潮する顔と上がる体温は、冬の風でも冷やせなくて。
ドキドキしながら2人でツリーの前へと歩いて行く。
美しくも巨大なツリー。
普段なら目を奪われそうなそれも、隣に感じる温かさ程のインパクトはない。
「やっぱり、綺麗ですわね……」
「う、うん……」
うん、とは言ったものの。
とてもツリーに意識なんていかない。
どきどきしながらみやびの顔を見ると……その表情がふと、愁いを帯びたものになる。
「ふふ……アルブレヒト様とこうしてここに来られて、みやびは嬉しいですわ」
その言葉の意味を察して、アルブレヒトは黙ってしまう。
「生まれてからずっと……私の世界は『お屋敷』が全てでした。何不自由のない生活。でも、ちょっと物足りない気持ちは……ずっと抱えていました」
アルブレヒトは、何も言わずにみやびの独白を聞く。
騒がしいツリー前で、しかし。アルブレヒトの耳には、みやびの声以外は聞こえていなかった。
「だからこんな風に、普通の女の子みたく過ごすのって……ずっと夢だったんです」
そこで、ぐいっと引かれるアルブレヒトの腕。
「こんな素敵な時間をプレゼントしてくださったアルブレヒト様に感謝ですわ……」
アルブレヒトの頬への、情熱的な口づけ。
それはクリスマスの夜の……情熱的で、純粋なキス。
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