楡崎・洋子 & 梅咲・一花

●目を閉じて……頭を下げ…っ!?

「それで、用事は?」
 公園へと連れ出された一花は、ヤドリギのある木の下で周囲をキョロキョロと見回しながら洋子に尋ねていた。とぼけた質問に洋子は何かをくじかれそうになるが、ここで挫けては去年と同じだ。
「梅咲、目を閉じなさい」
「おぉ? これでいいかな?」
 勇気と気力を総動員して口にした言葉に応じて、一花は目を閉じる。実力行使は不本意だったかもしれないが、手段を選ぶ余裕もない。幸いにも素直に一花は目を閉じ、唇を重ねるのに後一歩の距離まで洋子はたどり着いていたのだ。最後の関門がまだ残っては居たとしても。
(「高さが合わないわね……」)
 最後の関門、それは身長差。
「梅咲、頭を下げ」
 最後の関門を乗り越えようと口を開いた洋子は、次の瞬間星を見た。
「おぉ……」
 綺麗に決まった顔面へのヘッドバッド。無言で悶える洋子の前には律儀に目を閉じたまま額を抑える一花の姿が。
「こんなところね」
 何がこんな所なのかはわからない。ただ、目を開けて良いと言われて一花は目を開けた。多分自分の額がぶつかったのだろう、洋子の眼鏡にはヒビが入っている。そして目は何処か潤んでいて。
「先ぱ……」
「とりあえずイルミ見に行くから付き合いなさい」
「了解」
 何かを言いかけた一花は、命令の形をとった要請に頷いた。

「着いたわ」
「おぉ」
 まだ額が傷む様な気もしたがおくびも出さず洋子は足を止めた。すぐ後ろから聞こえた感嘆の声も当然であるかの様に、周囲は美しいイルミネーションに囲まれている。クリスマスならではの光景ではあるが、同時に絶好のデートスポットだ。周囲には洋子達だけではなく複数のカップルが愛の言葉を交わしたり、唇を重ねている。
「なるほどね」
 返事はまだだが、一応面と向かって告白は済んでいるのだ。流石に一花も洋子が何を望んでいたか悟ったのだろう。
「先ぱ……洋子」
 わざわざ一花は言い直し、洋子へと歩み寄る。
「いつか答えないといけないことだったからね」
 主語は無い、それでも洋子には意味がわかる。
「梅咲?」
 戸惑う洋子の視界いっぱいに想い人の顔が迫って……唇が重ねられた。

「先輩……」
「え、あ……」
 名を呼ばれ、洋子は我に返る。すぐ目の前には一花の顔。
「随分ボーッとしてたけど」
「え?」
 思わず赤面しかけた洋子だったが、心配そうに顔を覗き込む一花の言葉に思わず硬直しつつ問い返した。随分ということは先ほどの口づけは痛みにボーッとして見た夢だったのだろうか。とは言うものの。
「梅咲。あんた、さっき私にキスした?」
 などと面と向かって聞けるはずもない。結局真相を確かめることも出来なかった洋子は、来年こそはとリベンジを誓いつつ帰路に着くことになる。そっと自分の唇に触れながら。




イラストレーター名:土方