紅尉・双翼 & 板倉・佳奈芽

●ふたりの距離

 夜空に舞う雪が、クリスマスツリーの光に照らされて静かに煌いている。
 学園祭でやっと告白できたものの、ふたりが付き合い初めてからもう一年以上が経つのだなと。
 双翼はそんなことを思いながらも、彼女の思いがけない行動に密かに驚いていた。
 普段は自分から誘うことが多かったが。今日のデートは、佳奈芽の方から誘ってきたのだから。
 そんな、いつになく積極的な彼女に優しい視線を向けて。
 双翼は驚きを感じながらも、いつも以上にドキドキしていたのである。
 それからいつもに増して早い鼓動を刻む胸の高鳴りを感じつつ、ふと思う。
 自分はまだ彼女について知らない事が多くて。
 そして……不器用ゆえに、佳奈芽に対する思いをきちんと彼女に伝えられているのだろうか、と。

 そんな双翼の隣で。
 彼を誘った佳奈芽も、ほんのり頬を赤らめ、緊張の面持ちをしているが。
 ふと、彼から告白された日のことを思い出していた。
 思いを告げられた、あの瞬間。正直、驚きよりもホッとした気持ちの方が大きかった。
 自分の彼への気持ちが、決して一方通行ではなかったと分かったから。
 それから愛しい人と共に過ごしてきた今までの日々を幸せに感じつつも。
 佳奈芽は、彼に対して何だか申し訳ない気持ちも抱いていた。
 告白された日から、結局ずっと、彼にリードを任せてばかりだったから。

 ――だから。
 今夜は、自分の正直な気持ちを相手に伝える事にする、と。

 大きなクリスマスツリーの前で、ふたりは自然と歩み寄って。
 照れと恥ずかしさで顔を赤らめつつも、決して互いに視線を外さずに。
 じっと、愛する人だけを見つめて。
 自分の気持ちを真っ直ぐに相手へとぶつけたのだった。 

 俺は、もっと佳奈芽の事が知りたい。
 俺は、もっと佳奈芽と一緒にいたい。
 俺は、佳奈芽が好きなのだ、と。
 
 双翼さんに負けないくらい、私はあなたが好き。
 いつまでも、受け身のままじゃ嫌だから、と。

 ――雪が舞い散る、聖夜の空の下。
 改めて思いを通わせ合った愛し合うふたりが感じるのは。
 じわりと全身に伝わる相手の体温と、優しくて柔らかなキスの感触。
 そして、くすぐったさと恥ずかしさと、何よりも幸せで満たされた気持ち。
 今、この瞬間――ふたりの距離は、ゼロになる。




イラストレーター名:かいらぎ