ティセ・パルミエ & 相羽・光

●クリスマスケーキの甘い誘惑

「生クリームの量が足りないね。ちせちゃん、そこの生クリームのパックとって」
 キッチンにカチャカチャと泡立て器の音が響く。攪拌されているのが生クリームなのだろう。パタパタというティセの足音がテーブルに近づき、数秒経たずして戻ってくる。
「ひかるお姉ちゃん、これでなのです〜?」
「うん、ありがとうっ」
 ティセの声へ感謝の言葉を返し縦に縮めた牛乳パックのような形をした容器から生クリームを流し入れると、光は砂糖、バニラエッセンスを追加したボールを傾け、再び泡立てはじめる。最初は素早く。泡立て器も傾けて空気を抱き混むように。
「いい匂い……」
 生クリームを攪拌する光の鼻孔をくすぐるのは香ばしさと甘さをほどよくブレンドしたスポンジケーキの香り。昼間にケーキ売りの手伝いをしていた記憶がフラッシュバックし、今自分がここにいる経緯も思い出す。ケーキが食べたかったので作ることにした。色々簡略化すればそう言うことになる。例えば、売り物に手を出しかねないぐらい食べたそーにしてしていたことなど。
「結構うまく出来てるね〜、あともうちょっとで完成だねっ」
「はいなのです〜」
 ゴムべらを手にしたティセへ後はよろしくね、とボールをバトンタッチして光は手を休める。実際、残る行程はスポンジ外面のコーティングとデコレーションのみ。二人の協力のかいもあり上手く焼き上がったスポンジケーキは、横から二つにスライスされて平たく切られたイチゴと生クリームを挟み込み柔らかそうな肌を晒している。まだ生クリームという衣を纏っていないのだ。だからこそ追加のクリームを泡立てていた訳でもあるが、それももはや過去のことだ。
「頑張るのです〜」
 ティセはゴムべらでクリームをすくうと、ケーキの上へとのせていった。幾らか乗せたところでヘラを使って伸ばせばいい。ケーキの上面はクリームで徐々に隠れ、もう一すくいしようと振り返ったティセの目に飛び込んできたのは、クリームの表面を撫でる光の指。
「ん〜、甘くておいしー☆」
 ぽかーんとするティセを尻目に指ですくい取ったクリームを指ごとくわえて、光は満面の笑みを浮かべた。ご満悦であるらしい。
「食べ放題なのですよ〜」
 少し驚きはしたものの、昼間のことを思い出してティセも微笑みを浮かべる。ほのぼのとした時間。
「じゃ、じゃあ、あたしもなのです〜」
 ティセが真似をして味見をしたとしても誰が責められようか。二度、三度。
「イチゴもおいしいよっ」
 更につまみ食いはトッピングのイチゴへと飛び火し。
「甘いのです〜」
 いつしか二人の作業は止まってしまっていた。手は動けども、つまみ食いの為。
「イチゴに蜂蜜かけてみよっか?」
「はいなのです〜」
 この後、クリスマスケーキがちゃんと完成したのか、それは二人しか知らない。




イラストレーター名:かいらぎ