●しあわせの鈴
「もう一歩きしようか」
どちらからともなく相手を誘い、ふたりはイルミネーションツリーが輝く夜の街角を歩いていた。
学校のクリスマスパーティが終わってから、菜子はずっと俯いたまま黙ったままだ。
しかし、瑛二にはその理由が分からない。
学校を出てから、ずっと手を繋いだままだし、彼女の方から寄り添ってくるので、機嫌を悪くした訳ではないと思うのだが、何故か目を合わせてくれないので、『まずい事をしたかな……』と心配な気持ちになってくる。
彼女の表情を見た限りでは、怒っているような感じでもなければ、落ち込んでいるわけというわけでもない。
だが、その原因が分からなかったので、不安な気持ちを拭う事が出来なかった。
一方、菜子は恥ずかしそうに頬を染め、瑛二と仲良く手を繋いだまま、クリスマスツリーの傍にあるベンチに座る。
未だに瑛二と目を合わす事は出来ない。
その原因は瑛二が先程てくれた事。
それを思い出すたび、嬉しさと恥ずかしさで、いっぱいになる。
(「でも、ちゃんと自分の『しあわせ』を伝えなくちゃ」)
少し照れた様子で顔を上げ、菜子が笑顔を浮かべて鈴を鳴らす。
それは鈴蘭の花をモチーフにした銀の鈴で、軽く揺らしただけで、心地良い音が辺りに響く。
「この鈴……、何だかいい音がしますね」
その鈴には『これからも一緒にいられますように、しあわせであれますように』という願いが籠もっている。
「ああ、とっても」
ようやく彼女が笑ってくれた事で、瑛二がホッとした表情を浮かべて、同じように鈴を鳴らす。
その途端に心の中に渦巻いていた不安が一気に取り除かれ、幸せな気持ちに包まれていく。
「それに、とってもかわいい音ですよね」
ふたりの鈴をコツンと合わせ、菜子がニコリと微笑んだ。
そして、辺りには、まるで会話をしているように、楽しげな鈴の音が響くのであった。
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