平賀・双葉 & 伏見・葵

●とあるクリスマスの微笑ましい一幕

(「軽い気持ちで誘ってみたけど……、まさか乗ってくるとはね。こういうのを嬉しい誤算って、言うのかしら……?」)
 葵を自分の部屋に招き入れ、双葉が彼女の横顔を眺めた。
 双葉はほんの軽い気持ちで葵に『クリスマスを一緒に過ごす』事を提案したのだが、予想に反して彼女が乗ってきたため、少し驚いているようである。
 彼女にとっても二人で過ごすクリスマスは初めての経験だったので、本当は楽しい気持ちになっているのだが、あえてそれを表情や態度には出さないように気をつけた。
「それじゃ、ケーキでも食べましょうか」
 ちゃぶ台に置かれたクリスマスケーキを、適当なサイズに切り分け、双葉がひとつずつ皿に置いていく。
 クリスマスケーキの上には、砂糖菓子で出来たサンタと、チョコレートのプレートが残されているが、これは最後の楽しみとして残しておく事にした。
「このケーキ……、美味しいわね。クリスマスケーキだと思って侮っていたわ」
 幸せそうな表情を浮かべ、葵がケーキの味を堪能する。
 それほど味を期待していなかったのだが、思ったよりもしつこくなく、ほどよい甘さが口の中に広がった。
 あまり甘過ぎるケーキだと、一口食べただけでも、嫌気が差してしまうのだが、この味ならばいくらでも食べる事が出来そうである。
「あら、可愛いお化粧ね? 新しいオシャレ?」
 葵の頬についたクリームに気づき、双葉がからかうようにしてクスリと笑う。
 最初は指で拭い取ろうと思っていたが、途中で考えが変わって、ゆっくりと引き伸ばした。
「いきなり、何をするのよー!」
 その途端、葵が憤慨して説教を始めたが、双葉はまったく悪びれた様子がなく、黙って彼女を眺めている。
(「……さすがにちょっとやり過ぎたかしら」)
 そのため、双葉も悪ふざけが過ぎたと反省し、葵の頬についたクリームを拭うのだった。




イラストレーター名:零壱