野乃宮・彩華 & 寒桜・美咲

●聖なる夜。人々に祝福あれ

 聖なる夜。幾多のカップルが愛を確かめ合うクリスマスイブ。
 そんな中、カップルとは明らかに違う2人組……彩華と美咲の姿。
 中学三年生。人によっては恋に恋するお年頃だが、恋人が居なければいけないというわけでもない。
 問題はないのだが……寂しくないといえばウソになる。
 だが、それでも2人は。
 幸せな一時を過ごしている人々を祝福してあげたいと思っていたのだった。
「折角ですから、ホワイトクリスマスにしてあげたいですわね」
 此処は、とあるビルの屋上。
 2人は彩華手作りの弁当やお菓子を摘まみながら、屋上から賑わう様子を見守るように眺めていた。
 そんな中での彩華の言葉に、美咲は分かりやすく顔に疑問符を浮かべる。
 してあげたい、とは言っても。
 降雪機がここにあるわけでもない。
「ほへ、何するのぉ?」
 そんな美咲の当然の疑問に、彩華は微笑で答える。
 仕方がないので、美咲はスノーボールクッキーを頬張りながら彩華を眺める。
 広げられた、雪のように白い扇。
 彩華は扇を手に、ゆっくりと舞の型を取り始める。
 動く度に雪が舞うようにひらりと動くドレス。
 だが、それより美咲を感動させた事は……まるで、彩華の舞に合わせるかのように降り始めた雪。
 ひらり、ひらりと静かに舞い降る雪。
「もしかして、彩華ちゃんが降らせたのぉ?」
「さて、どうでしょう?」
 美咲の純真な問いに、彩華はあえて答えない。
 そう、今宵はクリスマス。
 世界中の誰もが奇跡を望み、あるいはそれを叶えてあげようと願う日。
 今日この日に起こる事は、起こるべくして起こしていく奇跡なのだと信じられる日。
 そんな日に、こんな無垢な質問に答えを出す事は……野暮という他は無い。
「あ、美咲ちゃん。そろそろ配りに……」
「えー待ってよぉ。まだケーキ食べてないー」
 2人の横にある白く大きな袋は、まるでサンタクロースの袋。
 中に詰まっているのは、プレゼントの甘いお菓子と……一杯の夢。
 美咲は慌ててオレンジ色のブッシュドノエルの載ったお皿を持ち、夢のたっぷり詰まった白い袋を担いで彩華の後を追う。
 2人の願いは、きっと同じ。
 大切な人達に聖なる夜の祝福を……。




イラストレーター名:堀出汀