●Dancing Holy Night;Before the Tempest.
今年のクリスマスは、2人でダンスパーティーに参加しよう!
そんなこんなで、ずっと前から準備して、いよいよ迎えたパーティー当日。
黒のフォーマルスーツに蝶ネクタイを締めた登真と、肩の見えるシックなカクテルドレスに身を包んだ千早は、パーティー会場へ向けて意気揚々と夜の街を歩いていた。
あのビルの角を曲がれば、パーティー会場まであと少し。
弥が上にも抑揚感が増してくる。
けれど、そんな気分を木っ端微塵に砕くかのように、突然登真の携帯電話が鳴り出した。
──ゴースト事件発生──!!
嗚呼、哀しい哉。
2人は能力者。
ゴースト事件を、そのまま放置などしておけない。
仕方なく、目と鼻の先にまで近付いていた会場に背を向けて、彼らはパーティーの衣装のままで現場へ向けて走りだした。
「……あーもー、クリスマスにお仕事とか空気読めってのよー!」
「まぁ、トラブルと難儀な客はタイミングを選ばないものさ」
「寧ろバッドタイミングばっちり過ぎだわよ! あーもー、ヒールにドレスで走り難っ!」
千早は頬を膨らませ、鬱憤を晴らすかのように思いっきり不満を叫んだ。そして遂にハイヒールを脱ぐと、両手でドレスの裾をつまみ上げ、裸足のままで走りだした。
少々……いや、かなりはしたないその姿に、登真がやれやれと溜息をつく。
まぁ、彼女の気持ちも分からなくはないけれど。
現場への道を急ぐ中、千早の怒りは高まってゆく。
「よし決めた、もう決めた! 今夜の敵は泣いても笑っても死んでても滅ぼす!」
「……八つ当たりは程々にな」
登真のついた溜息の数は、そろそろ両手の指を越えそうだ。
けれどそんなもの、今の千早の耳には蟻の鳴き声ほども届いていない。
「あたしサンタが可及的速やかに仏・血・斬り(ぶっちぎり)をお届けー!!」
ヤケ気味に、千早が走る速度を上げる。
(「……今夜は荒れるな」)
尚も溜息をつきながら、登真はそのあとを付いて行く。
このタイミングで現れてしまったゴーストに、なんとなく哀れみが沸いてくる。
彼らが穏やかで楽しいクリスマスを迎えられるのは、一体いつの日か……。
それは、世界結界だけが知っている……かも、しれない。
| |