●高所恐怖症のサンタとミニスカサンタ
「一体、いつまでそんなところでボサッとしている。早くしないと、夜が明けてしまうぞ」
家に立てかけてある梯子を上り、リーズバイフェが不機嫌な表情を浮かべて、梯子のまわりでウロつく昴を睨む。
「む、無茶言うなよ。そんな事を言われても、この状況をみれば、どうしてこんな事になっているのか、分かるだろ」
……昴は高所恐怖症。
リーズバイフェと違って、目の前の梯子を見ただけでも、激しい眩暈に襲われている。
「……だから何だ。それを覚悟した上で、その服を着たわけだろ」
刃物のように鋭い視線を送り、リーズバイフェがキッパリと言い放つ。
ふたりとも知り合いにプレゼントを配るため、サンタの格好をして屋根に上る事になったのだが、いざ梯子を前にして昴の動きが止まる。
「いや、そうなんだけどさぁ……」
(「もう少し優しくしてくれたって、バチは当たらないだろう」)
昴は思った。
とげうして、こんな目に遭っているのだろう、と。
……まさに悪夢!
いや、悪夢なら、まだ良い方。
目を覚ませば、現実世界に引き戻される。
だが、これは紛れもない、現実。
その重みが昴の両肩に圧し掛かった。
「……何か言ったか?」
リーズバイフェに心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、昴がシャンプーまみれになった犬の如く激しく首を横に振る。
「いや、何にも……。とりあえず先に行っておいてくれるか。俺も後から、そっちに行くからさ」
もちろん、嘘だ。
「見え透いた嘘をつくな。顔に『嘘』と書いてあるぞ」
……鋭いツッコミ。
「えっ? マジか!? ……って、うわわわ」
ハッとした表情を浮かべて、自分の顔を触った瞬間、危うく梯子から落ちそうになった。
「分かったら、早く上って来い。このまま上るつもりが無いなら……、梯子を落とす!」
それは昴にとって死の宣告にも等しい言葉。
途端に背後が死へと続く13階段に見えた。
「……頼むから妙な真似はするなよ」
覚悟を決めて背後を登る。
そのたび、心音が高まった。
そして、最後の一段……。
「やれば出来るじゃないか。それじゃ、行くぞ」
そのため、昴は大粒の涙を浮かべ、早くクリスマスが終わるように、心から祈るのであった。
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