捺兎・茨優 & 朸榎・塑亜

●いちばんさいしょのクリスマス

 クリスマスの夜、茨優と塑亜はイルミネーションの輝く街角を訪れていた。
 恋人同士になったばかりの2人が、はじめて迎えるクリスマス。それは特別な時間で……塑亜は思わず笑みを浮かべていた。
(「……こんな風に、誰かを大切に想える日がくるなんて」)
 塑亜にとって、それは本当に特別な事だった。だからこそ、彼女をこんなにも愛しく思うのだろうかと、すぐ隣を歩く茨優を見つめる。こんな風に過ごす事が出来て……本当に幸せだと、塑亜は思う。

 しばらく歩くうち、2人は静かな公園に入り込んだ。
 ちらちらと、雪が舞い始めた聖なる夜。こんな日に公園を訪れる人はいないのかもしれない。
「戻りましょうか」
「あ、まってまって」
 イルミネーションの方を指差して、そう振り返った塑亜の袖を茨優が掴んだ。
 怪訝そうな顔をする塑亜に、茨優はふんわりと、優しくて暖かな笑みを浮かべて。
「あのね、あのね……メリークリスマス!」
 言葉と共に、茨優は一本のマフラーを取り出した。アイスグリーン色の綺麗なマフラー。それを両手で抱えながら、塑亜の事を見上げる。
「『クリスマス』はプレゼント、わたす、なんだよね? しゆ、そあせんぱいに、プレゼントあげるなのっ」
 背伸びして、両手を伸ばす茨優の姿に屈む塑亜。彼女の両手が、塑亜の首にマフラーを掛ける。
「ありがとうございます、茨優」
 それに触れながら、塑亜は嬉しそうに笑む。でも、何故か茨優はしゅんとして。
「……どうしました?」
「『手作り』にしたかったけど、しゆ、まだ作れないから……がんばって、作れるようになるまで、まってて、ほしいなの……」
 いつか、きっと、がんばるから。
 そう言ってくれる事が嬉しくて、塑亜が勿論だと頷きながら茨優の頭を撫でれば、彼女の顔にようやく笑顔が戻る。
「えへへ」
 とってもとっても、いっぱい嬉しいと茨優は思う。生まれて初めて外で過ごすクリスマスが、こんなにも幸せな気持ちなのは、きっと塑亜と一緒だからに違いないと、そう確信できるくらい。

 ――クリスマスが、こんなにも素敵なものだったなんて。

「そあせんぱい、ずーっと、だいすき、なのっ!」
「茨優……これからも、ずっと一緒に」
 満面の笑みで告げる茨優の言葉に、塑亜も少しだけ赤くなりながら、優しい微笑で答えた。




イラストレーター名:椿千沙