羅生・郁 & 草剪・恭介

●ビックリドッキリクリスマス!

「これで良し、と」
 今日はふたりっきりで過ごすクリスマス。
 そんな事もあり、郁は張り切って準備をした。
 だが、あまりにも張り切り過ぎてしまったため、恭介が来る前に部屋の暖かさと、適度な疲れで、うたた寝をしてしまう。
「……そろそろ眠ったかな」
 とある人の入れ知恵で執事服にトナカイの角付きカチューシャを付けた格好で、恭介が抜き足差し足でコソコソと彼女の傍まで近づいた。
 そこにはスヤスヤと寝息を立てる彼女の姿……。
 恭介は彼女を起こさないように気配を殺し、身体が冷えないようにゆっくりと毛布を掛けた。
「……メリークリスマス」
 そして、眠っている彼女の横に小さなプレゼント箱を置き、そこに真っ赤なペンが置かれていた事に気づく。
 ……これはいたずら書きをしろという天の啓示!?
 と恭介が思ったかどうか分からないが、まるで剣を抜くようにしてキャップを外し、彼女の頬にLOVEマークや、ハートマークを描いていく。
 郁が目を覚ましたのは、それからしばらく経った頃……。
「……って、恭介さん。まさか……」
 既にプレゼントの包みは開封され、準備してあったご馳走も、コッソリと食べられている途中だった。
「おはよう」
 恭介の笑顔が眩しい。
「……って、そこにいたのなら、起こしてください。それに、その格好は何ですか?」
 目を白黒させて顔を真っ赤にさせ、郁が恭介を叱り始める。
 しかし、恭介は彼女の顔に書かれた落書きが目に入ってしまうため、笑いを堪えるのに必死な様子。
 その間も郁は起きたばかりで働かない脳みそをフル起動させ、恭介に色々とツッコミを入れている。
「まぁ、いいじゃない。ケーキでも食べて機嫌を直して」
 苦笑いを浮かべながら、恭介が彼女の肩を叩く。
 どうしても落書きが目に入ってしまうので、まともに彼女の顔が見られない。
 恭介からしてみれば、それはクリスマス計画が成功した事を意味しているのだが、彼女が気づくまで笑いを堪えなければならないのが、ある意味キツかった。
 ちなみに、彼女の顔に書かれた落書きは、お風呂で鏡を見るまで気づかれなかったらしく、『恭介さんの馬鹿』という悲鳴が風呂場から響いたとか、響かなかったとか……。




イラストレーター名:御子柴 晶