宵凪・朔 & 九十九塚・灰那

●ぬくもり

 楽しかったクリスマスも、まもなく終わりを告げようとしている。
 沢山の喜びと幸せを胸に帰宅した朔と灰那、ふたりは心地よい疲れに包まれたまま、並んでソファーに身を沈めた。
 触れ合う肩と腕。
 緩やかに伝わってくる互いの温もり。
 思い出すのは、灰那が生涯で初めて使った言葉。

 ───愛してる。
 まだ使い慣れていないその言葉は、思い返すほどに気恥ずかしくて、灰那の頬は徐々に熱を帯びてくる。
 けれど、その言葉に偽りなどはどこにもない。
 心からの真実の言葉。
 だから朔は、そのとき心から喜んだ。
 そして今、彼の胸は幸せで満ちている。
 それは自然と頬に伝わり、とても穏やかな笑みとなる。
「ありがとう」
 感謝の言葉を囁いて、灰那の肩に毛布を掛ける。
 一枚の毛布にくるまれば、互いの温もりは更に近付き、心音までも聞こえてきそうだ。

 テーブルの上、小さなツリーを彩るのは、金色の猫とジンジャークッキー。
 仲良く並んだプレゼントを前に、ふたりは、暫し他愛のない会話を楽しんだ。
 楽しかった今日のこと。
 出会ってからの日々のこと。
 次から次へと、話したいことが浮かんでくる。
 けれど、丸一日分の疲れには逆らえない。
「……ぁ」
 フッと意識が遠退くたびに、目元をごしごしと擦る朔。
 はじめのうちは、何とかそれで耐えられたけれど、流石にそろそろ限界のよう。
「灰那ちゃん……今日は、ありがとう、やったんよ」
 朔の身体がゆらり傾き、灰那の肩に凭れかかる。
 夢と現で揺らめくような、途切れ途切れの最後の言葉。
「メリー、クリスマス、なんよ」
 続けて聞こえてきたものは、安堵したかのような静かな寝息。
「……メリークリスマス」
 灰那はそっと、彼の手に自分の掌を重ねた。
 起こさぬように軽く握り、改めてその存在を確かめる。
 瞼をそっと閉ざしたならば、それはより鮮明に感じられるだろうか。
 だから自然と、優しい言葉が零れ落ちる。
「私は、今とても幸せですよ」
 誰よりも愛しい人のぬくもりが、ここにある。
 灰那はそれを、胸の奥まで感じ……。
 そしてゆっくりと……やさしい眠りに身を委ねた。

 耳元に、朔の吐息を感じながら………。




イラストレーター名:碧川沙奈