●うっかりクリスマス
「あ、いらっしゃいです剛さん!」
「ごめん、遅れちゃって」
剛が琉架の部屋に入ると、鼻を甘い匂いがくすぐる。
女の子らしい装いの部屋には、丁寧に作られた飾りが飾られている。
急いで用意したのだろう、所々ではあるが、少し荒いところもあったりする。
言ってくれれば手伝ったのに、とは思うけれども。
自分を最高の状態で迎えてくれようとした琉架の心が嬉しくて、剛は鼻の頭をかく。
輪っかやモールなどで飾られた壁からふと目を離すと、部屋の隅には小さなツリー。
「ひょっとして、これの飾りも……」
「はい、フェルトを縫って作ってみたのです」
「すごいな……」
ひとつひとつが、慌てて用意したとは思えない程に良く出来ていて。
思わず感心して天辺の星に触れてみると、ぽろりと転げ落ちてしまう。
そのままコロコロ……と床を転がって2人の目の前で止まるお星様。
「……ごめん」
どうやら、慌てて作った為にしっかりくっついていなかった所もあるようだが……運悪く、そこに触ってしまったらしい。
「……だ、大丈夫なのです! すぐ付け直せるのです!」
慌てた自分を隠すように、満面の笑みで飾りをつけ直す琉架。
バレバレなだけに、そんな自分に気を使わせないようにしている琉架を気にして、剛は何となくオロオロしてしまう。
「……ほら、できた! うん、これで大丈夫!」
「良かった。有難う」
本当に安堵して、剛は溜息をつく。
再びツリーの天辺にのった星を見ながら、2人でほっとした顔を見せて。
「……さ、ケーキ、食べましょ! 紅茶が冷めちゃいます」
くるり、と振り向いた……その瞬間。
ぽとり……と。嫌な音が響いて。
「あ……」
「う……」
思わず、そのままのポーズで固まってしまった2人。
今年最後の2人の共同作業は、ツリーの星をしっかり固定する事。
剛のうっかりから生まれた、この事態。
でも、それなりに幸せな……2人だけの、幸せな夜。
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