●** Handmade Happiness **
ここは二人にとって、とても特別な場所だった。
暗い森の奥にある、ひっそりとした空間。
そこにあるのは、今は使われていない小さな教会。
ここは、亮とシャズナの出会いの場所。
特別な日だからこそ、二人はこっそりと訪れていた。
出会った時も、既にここは使われていなかった。
久しぶりに訪れたこの場所は、何も変わっていないようでいて、けれど緩やかに変化していた。
正面のステンドグラスのヒビが前よりも増えたような気がするし、相変わらず天井の無い教会の中には雪が入り込んでいる。こうやって見上げる星空も、あの時一緒に見た星空とは似ているようで、でも何かが少し違うような気がする。
亮は持って来た大き目の毛布を広げ、二人一緒に包まる。
これなら、寒い夜でも十分に温かい。
亮とシャズナの大好きな場所。
ひびが入ってしまったステンドグラスがまだ綺麗で、教会の天井がちゃんとあって、ここがまだ普通の教会として使われていた頃は、沢山の人たちが永遠の愛と幸せを誓ったのだろう。
そんな事に思いをめぐらしていいると、亮がぽつりと言葉をこぼした。
「この間、地元の人達が話しているのを聞いたんだけど。ここ、近々解体されてしまうらしんだ」
毛布で包みあって身体を寄せ合って、そして聞こえた亮の言葉にシャズナは少し寂しそうな顔をして亮を見た。
シャズナのその表情が余りにも切なくて、亮は眉をしかめて困ったような、何ともいえない笑みを浮かべる。
いつかふたりの結婚式を挙げることができるのなら、ここで。それが亮の夢だった。
親や沢山の大切な友達に、シャズナの、彼女の幸せな姿をここで見せてあげるのが夢だった。
いくつかある夢の中でも大切な、とても大切な夢のひとつだった。
「間に合わなくてごめんね」
唇を噛み締め、搾り出すような掠れた声の亮の言葉。
亮はシャズナを見たいのだけれども、何故だか彼女の方を見れない。
友達全員が能力者というわけではないし、父親も兄も、妹も能力者ではない。
乗り越えるハードルは高くて険しいけど、どうにかできないものかと考えてみる。
だけど、亮ひとりで考えたって、急に良い案が出てくるはずもなくて。
「でも、いつか絶対叶えてみせるから」
今度はしっかりとシャズナの方を見て、亮ははっきりと言葉にする。
それに応えるように、同じ気持ちだというように、シャズナが身体を寄せてくる。
それがとても嬉しくて、愛しくて、亮はそのままシャズナにキスをする。
クリスマスに飾られた街を手を繋いで歩くことも。
遊園地でのデートも。
自分達には出来ないけど、それでも今このとき、彼女がいてくれるだけで、世界中の誰よりも幸せだと感じられる。
だから亮は、改めてこの教会に誓う。
――この先も、二人が一生幸せである事を。
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