篠江・疾風 & 壬生谷・侑

●初めてのクリスマス

 待ち合わせ場所である駅前のオブジェ前へ急ぐ疾風。
 今日は2人にとって初めてのクリスマス。
 せっかくなので休みを取って、ふたりで過ごそうと決めたのだが、疾風は結社の行事で足止めを食らってしまい、待ち合わせの時間に遅れていた。
 だが、時間を止める事が出来ないため、降り始めた雪が鬱陶しいと思いながら、待ち合わせの場所であるオブジェの前を目指して突き進む。
 一方、その頃……。
 侑は寒そうに身体を震わせ、雪の降る中でオブジェの前に立ち、健気に疾風を待っていた。
「悪い……、遅れて」
 激しく息を切らせながら、疾風が侑の頭にうっすらと積もった雪を払う。
 そこでようやく侑も疾風に気づき、『……ぁ』と小さく声を漏らす。
 侑の身体に積もった雪は頭から肩にかけて積もっており、すっかり身体が冷たくなってしまっている。
 どうやら、疾風が待ち合わせの場所に来るまで、ずっとその場から動く事がなかったようだ。
「疾風さん……よかった、です……」
 彼が待ち合わせの場所に現れた事で、侑は寒さも忘れてホッとした気持ちに包まれる。
「喫茶店とか入ってて良かったのに……」
 侑が静かに首を横に振った。
「それじゃ、コンビニは……?」
 再び侑が首を横に振る。
「待ち合わせ場所、ここですから……俺、動きたくなかった、です」
 侑が潤んだ瞳で、答えを返す。
「……バカだな」
 苦笑いを浮かべながら、疾風が自分のマフラーを侑にかける。
 侑もマフラーのぬくもりと共に、疾風の優しい気持ちが伝わり、『ここで待っていた甲斐があった』事を実感した。
「ありがとう……待っててくれて」
 あらためて侑に感謝の言葉を送り、疾風がフッと微笑みかける。
「当たり前じゃないですか。……ずっと、待ってますから……」
 恥ずかしそうに頬を染め、侑がマフラーで口元を隠して答えを返す。
 ……こうして2人のクリスマスは始まった。




イラストレーター名:仁藤あかね