●会いたい
クリスマスの日、今日介と由希は別々の場所にいた。
今日介は結社である喫茶店でバイト。
由希は新聞社の仕事で残業中。
ふたりとも特に付き合っているわけではないのだが、自分達でも気づかないうちに、少しずつお互いを意識し、惹かれ合うようになっていた。
彼らを結びつけているのは、亡くなった真壁・慎司の存在。
……慎司は由希の死んだ彼氏。
彼の死と共に今日介は能力者として覚醒した。
単なる偶然の一致か、それとも運命なのか、ハッキリとした事は分からないが……。
それが当然であるかのように、今日介は彼女を守る事を望み……。
ふたりは運命の糸で繋がれているかのように、惹かれ合っていく事になる。
もしかすると、そこに慎司の意思が介入していたのかも知れない。
いまとなっては、それを証明する術が無いので、気のせいなのかも知れないが……。
それでも、お互いが惹かれ合っていた事は事実であった。
『……好きになってはならない』
『好きになるべきではない……』
『……だからこそ、会うべきではない……』
そんな言葉がふたりの心の中で繰り返される。
結果的にふたりは結ばれる事を、心のどこかで何処かで拒んでいた。
脳裏に浮かぶのは、慎司の姿……。
……複雑に絡み合う運命の糸。
その糸を解く事が出来るのは、慎司しかいないとさえ、ふたりは錯覚した。
それだけ、ふたりにとって慎司は、切る事の出来ない存在……。
『だとしたら、やはり会うべきではない』
いつものふたりだったら、そう思っていたかも知れない。
会う事によって、惹かれ合う気持ちが強くなるのなら……。
絶対に会うべきではないと思ったから……。
だが、今日だけは……。
『……会いたい』
それがふたりに共通した気持ち……。
例え、どんな事が起ころうとも、『会いたい』という強い気持ちが、ふたりの心の中に芽生えた事だけは事実であった。
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