来生・氷雨 & 神蔵・悠

●聖なる日のイタズラ?なKiss

「ちょっとバカップルぶちのめしてくるー」
 クリスマスイブの突然の衝撃宣言。
 思わぬ重大発言に悠は、氷雨をマジマジと見る。
 釘バットを持ったところを見ると、比喩ではなく本気と書いてマジのようだ。
 だが、まだ断定はできない。
 そう、氷雨なりのジョークかもしれない。
 だが残念、ジョークではなかった。
 走りだす氷雨を、悠は慌てて追いかける。
「そういうことは自分を不幸にするよ!?」
 しかし、正論で止められる事などほとんどないのが世の真理。
 追いかけ追いかけられて、氷雨の手には釘バット。
 このままあわや大惨事と思いきや……そうはならなかった。
 あれだけあった氷雨の戦意は、町まで来ると霧散してしまう。
「うわ……」
「わぁ……」
 思わず2人とも絶句する。
 クリスマスイブの町中は、何処もカップルで一杯だ。
 冬の寒さを吹き飛ばすような熱々カップル達に、思わず毒気を抜かれる2人。
 そのまま帰事もせず、ガードレールに2人して腰を下ろしてぼーっとする。
 まるで、2人で愛を囁き合うのが当然であるかのような街中で、ふと氷雨は……とある欲求にかられた。
「ね、悠ちゃん……少しだけ目閉じてくれる?」
 それは、ひょっとすると……クリスマスの雰囲気にあてられたのかもしれないけれど。
「え? なんで?」
 言いながらも目を閉じる悠が、何だかいつもよりも、ずっとずっと愛おしく見える。
「時々小生意気だなって思うけど……こういう素直なところがいいんだよねぇ」
 悠の頬に、氷雨の冷たい手の感触。
 そして……唇に触れた、柔らかな感触。
 それがキスだと気づいた時、悠の顔がサンタの服みたいに真っ赤に染まる。
「メリークリスマスだよ、こういうのもありでしょ?」
 慌てる悠と、余裕の表情を見せる氷雨。
「少なくともあたしは悠ちゃんのこと大好きだし♪」
 これもあるいは、クリスマスのカップル達にあてられたせいなのだろうか。
 氷雨の顔も、今さらながらに赤くなってきて。
 でも、それは心地の良い温かさのように感じて。
 いつの間にか降り始めた雪の中で、2人は自然と手をつなぐ。
 聖なる日のイタズラなキスは……2人にとって、きっと大切な思い出になっていく。




イラストレーター名:仮。