●美男と野獣
淡い月明かりに照らされた街角を、モデルの仕事を終えた青年が、家路を急ぎ歩いていた。
いたるところで煌めいているイルミネーション、行き交う人々の楽しげな笑い声。
「そうか……今日はクリスマス……」
最近仕事が忙しくて、曜日どころか日付の感覚すら曖昧になっていた蓮の目に、ふと飛び込んできたものは、美しく飾られた大きなクリスマスツリーだった。
もう少し、近付いてみてみよう。
蓮はツリーへと歩み寄り、暫しその輝きに見とれていた。
───すると。
「あれ……?」
いつの間に現れたのだろうか……ツリーのてっぺんに、先程まではなかったはずの人の影のようなものがさしていた。
幻かと、何度か瞬きしてみたが、人影はまだそこにある。
一体あれは、何だろう……。
見上げたまま考えていると、影は、不意にふわりと夜空に舞った。
(「もしかして、天使!?」)
月光に照らされながら振ってくるそれを見て、蓮は一瞬そう思った。
けれど、それが間違いだということに気付くまで、ものの3秒とかからなかった。
天使の正体は、蓮を待ち伏せしていた菫だった。
彼女は、ツリーの下に歩み寄ってきた蓮を見るや、彼めがけてツリーの上から飛び下りたのだ。
勿論、蓮は逃げようとした。
だが菫の落下速度の方が、彼の逃げ足よりも僅かに早く……哀れ蓮は、その衝撃に耐えきれず気を失ってしまった。
「従兄様!! 大丈夫なのじゃ!?」
菫は慌てて蓮を抱き起こしたが、彼の意識はないままだ。
「従兄様……」
すらりとした長身、端整な顔立ち。
その姿は、菫に『眠りの美しい王子様』を連想させた。
そして、飛躍する妄想。
「これは、サンタのプレゼントに違いないのじゃ!!」
何がどうなって、そういう結論に行き着いたのか。
菫はぐふりと笑みを浮かべ、いまだ気絶したままの蓮をお姫様抱っこして立ち上がった。
そしてそのまま、どこかへと連れ帰ってしまった………。
天……野獣の手に落ちた王子様が、その後、どのような運命を辿ったのか……。
それは、ここではとても語ることができない………。
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