冴神・夜斗 & 瑚宵・莱鵡

●初めてのクリスマス

「いやー、莱鵡ちゃんの手料理、楽しみだなぁ!」
 彼女の手料理が出来るまで待ちながら、夜斗が心底幸せそうな表情を浮かべる。
 クリスマスの夜に料理を御馳走すると言って、夜斗の部屋に莱鵡がやってきたのは、数時間ほど前の事……。
 台所のある方向に耳を澄ませば、彼女の楽しげな鼻歌が聞こえてくる。
(「……わざわざ、男の部屋に来て、料理を作るだけなんて色気の無い真似、この俺が許すとでも思っているのかい? ここに来た時点で、莱鵡ちゃんの運命は決まっていたんだから……。料理を食べる前に、まずは……くっくっくっ」
 いかにも悪そうな笑みを浮かべ、夜斗が邪な考えを巡らせた。
 莱鵡が油断しているのは、それだけ夜斗に心を許しているという事なのだが、どちらにしても、彼にとっては都合のいい事だ。
 一方、その頃……。
「頑張って美味しいの作りますから、もう少し待ってて下さいねー」
 莱鵡は調理から目を離さず、一生懸命になって料理を作っていた。
 よくよく考えてみれば、夜斗に手料理を食べてもらうのは、初めての事……。
 そのぶん、いつもより気合が入っており、腕によりをかけて料理を作っている。
(「伊達に調理師を目指している訳じゃないですし……。絶対に満足してもらうんですから……」)
 まるで呪文のように呟きながら、莱鵡が集中して料理を楽しむ。
 そのせいで邪な考えを持った夜斗の存在にも気づかず、徐々に不穏な空気が彼女の身体を包み込んでいく。
「……莱鵡ちゃん、俺と二人きりだってのに、油断し過ぎだぜ?」
 背後からコッソリと忍び寄り、夜斗が莱鵡の身体をギュッと抱き締め、彼女の耳元で怪しく囁き、顎に手を添えて自分の方に振り向かせた。
「わ、ま、まだ料理中だからダメですよ……! ダメ……です……よぉ……」
 吃驚した表情を浮かべて赤面し、莱鵡が断りきれずに目を閉じる。
 そして、ふたりの唇が重なり合った……。




イラストレーター名:たぢまよしかづ