カイト・クレイドル & カイル・クレイドル

●クレイドルさんちの家庭の事情

 小雪舞う聖夜。
 デートの準備をしていたカイルを訪ねてきたのは、最近できた可愛い彼女。

 ………ではなく、極力関わりたくないアホ兄貴だった。
「うっす我が愛しの弟きゅん! メリークリスマス!」
 カイルとカイトは異母兄弟。
 初めて兄が銀誓館学園にいると聞かされたとき、カイルの胸は高鳴った。
 だがいざ実際に出会ってみれば、沸き上がるのは感動ではなく辟易ばかり。
「帰ってください。クレイドルさん。ココは貴方の来る場所ではありません。さようなら」
 カイルはそう冷たく言い放ち、強引に玄関の戸を閉めようとした。
「ちょ?! プレゼントプレゼント!」
 カイトはそれを力尽くでこじ開けて、無理矢理腕を差し入れた。
「……お茶も何も出しませんよ」
 諦めたように溜息をつき、扉から手を離すカイル。
 ヘヘッと笑って腕をさすり、部屋の中に入ってきたカイトの手には、何やら大きな包みがひとつ。
 赤いリボンの結ばれた、エメラルドグリーンの紙袋。
「プレゼントを家族に渡すのとか憧れてたんだぜ? ずっと家族なんて居ないものだと思ってたしさ」
 背を向けたままのカイルをそっと抱き寄せ、カイトが優しく囁きかける。
「オマエが居てくれて、すげえ嬉しいぜ」
「………」
 視線だけを後方に向ければ、屈託のない真っ直ぐな笑顔。
 流石にちょっとばつの悪さを感じたのか、カイルは僅かに俯いた。
「……俺、アンタのそういうところ大嫌いです」
「ん? 僕はカイルきゅんのそういうとこ大好きだぜ?」
 あまりにもさらっと言ってのけるカイト。
 そしてカイトは、僅かに頬を紅潮させて悔しげに眉を寄せるカイルの腕に、強引にプレゼントを抱えさせた。
「お前、今からデートだろ? 役に立つと思うぜ」
「え、役に……って?」
 カイルの頬に、更に赤みが増してゆく。
 カイトはそのさまを見てにししと笑い、プレゼントの中身が何なのかを告げぬまま、足早に彼の部屋から去っていった。
「あっ、ちょっと待……」
 けれど言葉は扉に遮られ、次にそこを開けた時には、彼の背中は最早遙か彼方だった。
 ふぅっ……と、また大きな溜息をつき、ひとり部屋へと戻るカイル。
 耳に残るは、嬉しそうなカイトの言葉。
「アンタって人は、まったく……」
 ふと紙袋に視線を落とせば、いつかと同じ胸の高鳴り。
 少なからぬ喜びと期待を胸に、カイルは赤いリボンをゆっくり解いた。
 そして、紙袋の中に手を差し入れ……。

 差し入れ、その瞬間硬直し。
 数秒後、爆発的な怒りとともに動き出す。
「こんなもんいるかっ!!!」
 床に叩き付けられた袋から転げ出たのは、とてもとても、口に出して言えないようなアレなグッズ。
「だから俺はアンタが嫌いなんだっ!!」
 兄の心、弟知らず。
 いや寧ろ、知りたくもない!!!

 その後、プレゼントがどのような運命を辿ったのかは……此処では敢えて明記しない。




イラストレーター名:たぢまよしかづ