宮村・雛乃 & 黒崎・魁流

●X'mas 〜だいすき〜

「こりゃ、凄ぇな。さすがクリスマス。スケールが違うな」
 クリスマスツリーを眺めながら、魁流が勢いよくベンチに座る。
 夜の公園はクリスマス仕様になっており、色取り取りのイルミネーションが飾り付けられていた。
「ほんとっ! 宝石箱みたいだよね」
 満面の笑みを浮かべながら、雛乃がベンチの後ろに立って答えを返す。
 キラキラと輝くクリスマスツリーは、まるで宝石箱のよう……。
 ひとつひとつの飾りが宝石の如く輝いており、雛野達の心を和ませてくれた。
「宝石箱か。……確かにな」
 ベンチに右肩をかけながら、魁流が苦笑いを浮かべる。
 そう言われてみれば、クリスマスツリーのイルミネーションひとつひとつが、美しい宝石のように見えてくる。
 もしかすると、クリスマスツリーを設置した業者も、そんな事を考えながら、イルミネーションを設置したのかも知れない。
(「今日がクリスマスだからかも知れないけど……」)
 ……何だか胸がドキドキする。
 いつもならハッキリと言える『大好き』も、ふたりきりの今日は何だか照れくさい。
 その気持ちを口に出す事は出来ないので、『大好き』という言葉を体全体で表現するようにして、魁流に背後からギュッと抱きつく。
「おっ、どうした、急に?」
 突然の出来事に驚き、魁流が顔を赤らめた。
 その間も雛乃は心の中で『いつもありがとう』、『だいすき』、『ずっとずっと、いっしょにいたいね』などの言葉を送る。
 どれも口には出せない真っ直ぐな気持ち……。
 素直に言えないこの気持ちが、魁流に届くように願いを込めて……。
「何でもない」
 雛乃がニコニコと笑う。
(「……気持ちは伝わった?」)
 心の中で魁流に問いかける。
「……たく。何でもないわけないだろ。俺が気づかないと思ったか」
 そう答えて魁流がいつものクールさとはまた違った表情を浮かべ、優しい笑みをこぼすのだった。




イラストレーター名:碧川沙奈