狐月・一夜 & 熾・紅遠

●† Half Moon †

 1DKの狭い部屋も、少しまだらに焦げたケーキも。
 タンドリーチキン代わりに買ってきた、コンビニのフライドチキンだって。
 何も、文句なんてないのです。
「めりーくりすまーす♪」
 大好きな人さえいれば……それだけで、特別なクリスマスの御祝いはできるのだから。

「ね、紅遠、紅遠♪」 
「何ですか、一夜っち」
 きょとんと瞬かれる、紫色の瞳。その純真さに一瞬怯みはしたものの。
 これでも思春期の男の子、自分の気持ちと欲求には正直なお年頃。
 一夜はずいっとさり気なく紅遠を覗き込み、本題に入る。
「前の約束、憶えてる?」
「はい? 前の約束……どれでしょう?」
 はたと首を傾げ、ぐるぐると思考を巡らす紅遠。
 一体どの約束のことなのか、多すぎて分からないようだ。
 そんな紅遠に、キラーンと一夜の目が輝く。その様は狼というよりも、狩猟中の狐。
 そう……狐、である。
 一夜はまだ首を捻っている紅遠にすかさず言った。
「ほら、御揃い♪」
 その一言に、ぽん、と手を打つ紅遠。
「御揃い……あぁ!」
 どうやら思い出したようです。
 その約束とは――。

 ある日のこと。
 狐耳をつけた一夜がうろうろしていました。
 それを発見した紅遠は、かわいいかわいいと彼を撫で愛でました。
 撫でられながらも狐さんは、お嬢さんにすかさず言いました。
『そんなに可愛いと思うなら何時か御揃いしよーね』
 こうして一夜は紅遠と、(ほぼ一方的に)お揃いをする約束したのでした。

「あ、あれは……やっぱりその、恥ずかしいというか」
 確かに約束したものの。ちょっぴり照れたように頬を染める紅遠。
 だが勿論、一夜は引き下がらない。
 むしろ……。
「もんどうむよー♪」
「きゃあー!?」
 良いではないか、良いではないかと。紅遠に迫り、ぎゅっと後ろから抱きしめ、押し倒した一夜。
 紅遠は彼の行動に驚いたように瞳を見開いて。ちょっとだけジタバタと抵抗してみるものの。
 すぐにカアッと、顔を真っ赤にさせたのである。
 何故なら――哀れ、あっという間に約束通り、狐耳にされてしまったのだから。

 押し倒してする行為がソレであるという、純粋な一夜と紅遠。
 そして、お揃いの狐耳をつけたふたりの、そんな楽しいクリスマスのひとときを。
 雪の舞う窓の外からこっそりと覗き見していた半月だけが、知っているのでした。




イラストレーター名:愛羅