黒賀・重太郎 & 武神・志摩

●輝く時の中で

 漆黒の空から舞い落ちる真白な雪。
 そんな今日は――ホワイトクリスマス。
 雪の降る冬空の下でも。ふたり一緒ならば、大丈夫。
 感じるのは、厳しい寒さなどではなくて。
 ふたりで巻いている少し長めのマフラーと、繋いだ手と寄せ合った体から感じる、温もり。
「今日はゆっくりで、できるね」
「今日はゆっくりできるから嬉しいな! 前は夜には帰っちゃったからね!」
 クリスマスにふたりが訪れたのは、思い出の場所・横浜。
 重太郎と志摩は晩御飯を済ませた後、寄り添いながら赤レンガ倉庫へと向かった。

 赤レンガ倉庫をほのかに照らすのは、無数のキャンドルの炎。
 サンクス・キャンドルと呼ばれるそれらには、1本1本立てた人の想いが記されていて。
 赤レンガ倉庫のライトアップを観に来たふたりは、偶然、その灯火に出会った。
「うわぁ……! 綺麗だね!」
 志摩は満面の笑顔で、漆黒の瞳にほのかな光を映す。
 そして優しく見守るように微笑む重太郎に言った。
「ね、一緒にキャンドル置こうよ!」

 ふたりの想いを灯す、キャンドルの光。
 一緒にそれを並べてから。再び手を繋ぎ、揺らめく炎をしばらく眺める。
 志摩はそれからすぐ隣にいる重太郎を見上げて。にっこりと、心からの笑みを宿した。
 そんな志摩に、重太郎は。彼女に対する感謝の気持ちを懸命に伝えた。
「せ、世界がこ、こんなにも綺麗なこ、事を教えてく、くれたのは志摩だ、だよ」
「世界が綺麗だって思ったのは重太郎自身だよ? 貴方の感情は貴方だけの物だもの」
「わ、笑い方も泣き方もぜ、全部志摩がお、教えてくれたんだ」
 彼女は教えてくれた。
 笑い方も泣き方も。そして……大切な人を愛しく想う、特別な気持ちも。
 だがそれは、重太郎だけでなく。
「でも私も貴方に出会って色んな私を見つけたんだよ?」
 志摩にとっても、同じ。
 重太郎はそっと志摩だけを見つめ、抱きしめてから。心から溢れる気持ちを、言葉にした。
「ほ、本当にありがとう。何度で、でも言うよ? 愛しているよ」
「……私も愛してるよ、ずっと一緒に……」
 重太郎へと返される志摩のその言葉は――途中で、塞がれる。
 彼から落とされた、優しいキスによって。

 キャンドルの炎が揺れる、雪の舞う聖なる夜に。
 重太郎と志摩は、改めて感じるのだった。
 重ね合わせた互いの想いと唇の感触を。大切な人が隣にいる、今を。
 しっかりと――その手を繋いだまま。




イラストレーター名:愛羅