●ツリーに託した願い
「姫野様〜、これはこの当たりでイイ〜っ?」
小さなクリスマスツリーに雪の綿を乗せながら、涼音が一緒に飾りつけをしている息吹に話しかける。
涼音は一緒にクリスマスを祝うため、小さなクリスマスツリーのある息吹の部屋にいた。
彼女の部屋にあるテーブルの上には、ケーキと紅茶のカップが載っており、それと交換したらしい小さなプレゼントの包みが置いてある。
「あ、うん、バッチリ! あ、涼音君、そこにある小箱を取ってくれる?」
鈴を括る手を止め、息吹が小箱を指差した。
「は〜い! あ、黒猫がいっぱいだ〜! 僕と姫野様も居るのかな〜っ?」
瞳をらんらんと輝かせ、涼音が黒猫の小物を渡す。
「うん、きっと居ると思うよ♪」
楽しそうに返事をしながら、息吹が黒猫の小物を括りついていく。
ふたりとも楽しそうにクリスマスツリーを飾りつけ、協力し合うその姿はまるで仲の良い姉弟のようにも見える。
やがてツリーの天辺に星が飾られ、クリスマスの準備が完了した。
「綺麗……♪ 2人で頑張ったから、余計に嬉しいね♪」
完成したクリスマスツリーを眺め、息吹が感慨深い表情を浮かべる。
しばらくツリーに見とれる、ふたり。
苦労しただけの甲斐があって、クリスマスツリーはとても美しい。
「そ〜だ、サンタさんへのお願い吊るそ〜っと!」
満面の笑みを浮かべながら、涼音がクリスマスツリーに短冊を吊るす。
きちんとお願い事も書いたので、明日の朝までには願いが叶っているはずだ。
「……って、それは七夕でしょ! しかも『皆が健康でありますように』って。……サンタさん困るでしょ?」
そこで息吹の鋭いツッコミが入る。
涼音は一瞬、お笑い芸人のリーサルウェポンであるハリセンが見えた。
そして、息吹の脳裏には円らな瞳で困った表情を浮かべるサンタの姿が浮かぶ。
「そっか〜、靴下に入らないもんね〜っ」
納得した表情を浮かべ、涼音が手の平をポンと叩く。
「そうじゃなくて……まあいいか。大切な事だもんね」
途中で起こる気持ちが消え失せ、息吹が涼音の頭をヨシヨシと撫でた。
「えへへ〜っ! あ、姫野様っ!」
恥ずかしそうに頬を染め、涼音が彼女に視線を送る。
「うん? なあに?」
息吹もそれに応えて視線を返し、不思議そうに問い返す。
「改めてメリ〜クリスマ〜スっ!」
涼音の元気な声が辺りに響く。
「ふふ、メリークリスマス☆」
そう言って息吹が『来年もこうして一緒に居れたら』と願うのだった。
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