●あなたと夢を
賑やかなパーティー会場。クリスマスだからと思い、やってきたのだが……。
「うっ……」
思わぬ人の多さに、希兎は落ち着かない様子。
と、要の袖がくいくいと引っ張られる。
「ん? どうかした?」
「えっと……外、行かない?」
ちょっとばつの悪そうに見上げる希兎に要は笑みを浮かべる。
「うん、行こうか」
二人はそっと、会場を抜け出した。
すっと冷たい風が二人の側を横切る。
その度に、希兎は首元をきゅっと絞める。でも、その歩みは止めず、見つけた小さな小道をぐんぐんと歩いていく。
「今度はこっち!」
「転ばないようにね」
行く先よりも希兎の足元に気が向いてしまうのは、気のせいだろうか。
見知らぬ道なのに、不安よりもワクワクが先に来る。
と、要は希兎の選ぶ道に、何かを思い出した。見知らぬ道を歩いていたはずが、どうやら知っているところへと繋がっていたらしい。
「ねえ、キト。今度はこっちに行ってみない?」
「え? こっち?」
「そう、こっち」
悪戯な笑みを浮かべる要に希兎はきょとん。けれど、要がいうのなら、きっとそこは素敵な場所なのだろう。
「それじゃ、こっちに行ってみよう!」
彼女の足も軽やかに弾んで。
ざんっ!!
小道から抜け出した場所は、綺麗な花の咲く畑。それが一面に広がっていた。
「かっ風強い、寒い! ……けど、花が舞ってるのは……スゴイね」
「わあっ! すごい、すごいよっ! で、でも、ちょっと寒いね」
ひらけた場所のせいか、風通しが良い。空は美しい黄昏色に染まっていた。
ときおり吹く風にあおられて、数枚の花びらが空に舞う光景は、とてもとても美しかった。
「キト」
呼ばれたとたんに希兎は要に抱き寄せられる。
側に要を感じる。それだけではなく、寒い風も要が側にいるなら、暖かく感じる気がする。
「なんだか、飛んでいきそうだったから」
「僕はそう簡単には飛んでいかないよ」
そういって、もっと寄り添って。
「それにしても、すっごく綺麗なところ知ってたんだね、カナ」
「偶然、思い出せただけだよ。それにしても……紅い空、キレイだな」
にこっと微笑みあって。
「1年色々あったけど、またカナとクリスマスを過ごせて、すごく嬉しいや……」
要の笑顔を見て、思わずそっぽを向く希兎。その顔はちょっと嬉しそうで、ちょっと恥ずかしそうで。
実は要も希兎の笑顔に見惚れていたのは、言うまでも無く。
「まぁ、たまにはこんなクリスマスも良いかな」
気づかれないように二人は、同時に何かを取り出した。
「……メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
同じタイミングにびっくりして、笑い出しちゃって。素敵なプレゼントを受け取り、希兎は微笑む。
「カナ、夕焼け空も花もまた一緒に見ようね」
その希兎の顔には、空の黄昏色が映り込むかのように、僅かに茜色に染まっていた。
二人だけの静かなクリスマス。賑やかなパーティーよりも、二人にとってはこれが幸せなひと時。
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