●せっかくだし、ね。
日が暮れて、夕日が沈み、空に夜の帳が下りた頃。
祭と莉緒は街角を彩るイルミネーションを見物に来ていた。
学校の帰り道、今日の出来事を語り合いながら歩いて、クリスマスで華やかに賑わっている街角へと足を踏み込む。ショーウィンドウを、ビルの外壁を、街灯を彩るイルミネーション。ついつい見惚れて祭が足を止めれば、うっかり莉緒とはぐれてしまいそうになる。
「あ、もうっ。遊馬崎さん、ボーっとしてたら、また迷子になっちゃうわよっ」
夏祭りの時の事を思い出して、そう祭の手を掴む莉緒。ちょっと怒ったような口ぶりだけど、でもそれは莉緒が祭の事を心配しているからだ。
「ごめん……こんどは、迷子にならない……」
祭はその手をきゅっと握り返して、「さあ行きましょう?」と歩く莉緒についていく。
大勢の人で賑わっている街角。でもこうやって、手を繋いでいれば大丈夫。
やがて2人が歩く先には、ひときわピカピカ輝いている、綺麗なイルミネーションツリーが現れた。
「すごい……」
それは本当に綺麗で、幻想的で、どこか夢みたいに感じられるくらい、すごくて。
祭は、ただそう短く呟くと、口を大きく開けたままツリーに見惚れる。
上から下まで、どこまでも綺麗だと、そうツリーを見上げる祭の様子に、莉緒は少しだけ笑みを漏らした。そこまでツリーに夢中になっている様子が、可愛いというか、和んで癒されるというか。
「莉緒ちゃん、きれい、だね……」
「ほんと、綺麗ね」
やがて、ぼんやりとした表情ながらも、そう振り返った祭の言葉に莉緒は頷き返す。
きらきら、きらきら。
光の明滅を繰り返すその様子は、たまらなく綺麗だった。
迷子になったらいけない、と、ツリーに夢中になりながらもそれを思い出した祭は、ぎゅっと、ただひたすらに莉緒の手を握っていた。
ぎゅ〜っ。ぎゅーっ。ぎゅ〜〜〜っ。
……その一生懸命な様子に、手を握られている莉緒の方が逆に恥ずかしくなりそうだ。
頼られることは、決して嫌な事では無いけれど……。
「………」
莉緒は、その手をそっと握り返して、祭と一緒になってツリーを見上げる。
イルミネーションは、莉緒の顔色をも覆い隠して、きらきら光り続けていく。
やがて、十分にツリーを楽しんだ後、2人はゆっくり帰り道を歩き出す。
「きょうは、楽しかった、です……ありがとう、莉緒ちゃん……」
莉緒を見て、そう小さく微笑む祭に、莉緒もまた微笑み返した。
「私もよ。今日は誘ってくれてありがとう。……またどこか行きましょうね」
そう約束を交わして……2人は手を繋ぎながら、雑踏の向こう側に消えていった。
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