蚰樹・厳士 & 凪宮・ブラックナイト

●はじめてのふたりきり

(「なぎみーが、出かけようって言うから、来てみたけど……。どこを見ても、美味いメシ、一杯ある!」)
 瞳を爛々と輝かせながら、厳士が凪宮と一緒に夜の街を歩く。
 クリスマスだと言う事もあって、街はイルミネーションで彩られ、辺りには美味しそうな匂いが漂っている。
「うう……、せっかくげんじ君を連れ出したのに、なんでかなあ……。いつもはコブヘイさん(蜘蛛童)に邪魔されちゃうけど、今日は大丈夫だと思ったのにー。もっとこう、二人でゆっくりしたかったなぁ……」
 げんなりとした表情を浮かべ、凪宮がガックリと肩を落として、深い溜息を漏らす。
 クリスマスなので、もう少し恋人らしく、デートを楽しむ事が出来ると思っていたが、実際には厳士に手を引っ張られ、買い物に連れまわされていた。
「ん〜、いい匂い……。鳥……丸焼き……。う、美味そう。なぁ、おい。これ、くれ! あっ、ケーキも! それから、これと、これも!」
 ケーキやら、チキンやらの箱を持ち、厳士が色気よりも食い気に走る。
 それでも、満足していないらしく、荷物が次々と増えていく。
「え、え?? また買うの? ま、まって〜」
 驚いた様子で目を丸くさせ、凪宮が慌てて厳士の後を追う。
 しかし、あまりにも厳士が速かったので、何度も転びそうになりながら、フラフラと後をついていく。
「いっぱい貰ったな。……食べきれるかな。ま、帰ろう。一緒なら、食べきれる」
 山のように詰まれた荷物を眺め、厳士が満足した様子で笑みを浮かべる。
 さすがにひとりで食べきる事は不可能だが、ふたりで頑張れば何とかなりそうな量だった。
 もちろん、そのためには凪宮の協力が必要になるが、彼女には既に拒否権がないようである。
「ううっ……、食べ物ばっかり。……ちょっと悲しくなった。それじゃ、帰りま……って、ちょっと待って。一緒にって……、まさか、そのために?」
 ようやく厳士の言葉を理解し、凪宮がダラダラと汗を流す。
 ……さすがにこんなに食べきれない。
「何だ、変な顔して……。二人で来たんだ、当たり前だろ」
 『それが当然!』といわんばかりの表情を浮かべ、厳士が凪宮の背中をポンと叩く。
 その途端、嫌な予感が脳裏を過ぎり、目の前が真っ暗になった。
「あ、あうあう……、そうよねー。ふたりで頑張れば、何とか……ならないような気もするけど……、帰ろうか……。その、ゆっくりと、歩いて……。
 乾いた笑いを響かせ、凪宮がユラユラと歩く。
 もしかすると、本当の戦いは、これからかも知れない。




イラストレーター名:かりん