セラフィナ・トウドウ & 瀬高・憂

●精一杯の背伸び

 クリスマスの夜を共に過ごしたセラフィナと憂は、帰り道を歩いていた。
「イルミネーション、とっても綺麗でしたの♪ 駅前が普段と全然違って見えました」
「うん。でも、あれも今夜で終わりなんだよね」
 楽しげに歩くセラフィナの言葉に、ちょっと寂しいかも、なんて呟く憂。
「……また来年も、一緒に見に行ってくださいます?」
「もちろん。楽しみだね」
 おずおずと口にした言葉に憂が頷き返すと、セラフィナの顔がぱぁっと明るく輝いた。思わず、その場でくるっと踊るように回るセラフィナの姿に、憂はくすっと笑って、置いていくよと振り返る。
「あ、待ってください!」
 その背中を追いかけるセラフィナ。前を行く憂の背中は、とても広くて大きくて……不意にセラフィナは、まだまだ小さな自分との大きな違いを感じてしまう。
(「先輩はもうすぐ大人……でも、フィナが大人になるには……」)
 まだまだ小学3年生でしかない自分が、彼と同じくらい大人になるには、あと何年かかるだろう?
 数えようとして、その長さに眩暈を起こしそうになる。
 ……それは、ずっとずっと、想像が付かないくらいに遠い。
(「でも」)
 うぅ、と心の中で小さく呟いて、ふるふると首を振って。
 セラフィナは強い想いを胸に顔を上げる。
 まだ先の話かもしれない。ずーっと未来の事かもしれない。
 でも……いつかきっと、追いついてみせるから。
 ――こんな風に。

「先輩♪」
 憂の背中を追いかけて、そのまま彼を追い越して。
 振り返ったセラフィナは、ほんのちょっぴり屈んで欲しいと憂に頼む。
「ん? いいけど、一体な……」
 問いかけようとした言葉は、遮られる。
 ふわっと髪を揺らして、精一杯背伸びしたセラフィナの唇によって。

(「フィナが追いつくまで、待っててくれますよね? 先輩……」)
 不安が無いなんて言ったら嘘。
 でも、彼なら、きっと……そう信じてるから。
 唇を離して、赤くなって驚いてる憂を見ながら、セラフィナは笑った。




イラストレーター名:Hisasi