天河・翼 & 七尾・那緒

●ふたりの、距離

 イルミネーションが光り輝く、クリスマスの街角。
 その一角に、ベンチで寄り添う那緒と翼の姿があった。
「……すみま、せん。少し…失敗、して……しまったの、ですけれども……」
 そう言いながらちょっと申し訳なさそうに、翼が包みから取り出したのは、 白と黒のボーダー柄のマフラーだった。
 けれど、少々……いや相当長さを間違えてしまったそれは、那緒ひとりだけでは持て余す程に長くって、翼はほんの少し悩んだあと、自分の首にも巻きつけようと、マフラーの端に手を伸ばした。

 その時……。
「え……?」
 マフラーを掴んだ翼の手に、那緒の手が不意に重ねられた。
「那緒、さん……?」
「大丈夫、わかってるから……」
 暫しの沈黙、そして徐々に近付いてゆく2人の距離。
 翼の胸の鼓動が、少しずつ早くなる。
 だが那緒が発したのは、その想いを一瞬で木っ端微塵にするような一言だった。
「……端を地面につけないように走る、忍者がやってた鍛錬用なんだよね?」
「………」

きゅっ。

「……那緒さんの、ばーか……」
「ちょ、絞まってる! 絞まってるよ!?」
「……絞めて、ますから……」
 マフラーの色に負けぬほどに目を白黒させ、苦しげな呻きをあげる那緒。
 その首を、尚も容赦なく締め上げる翼。
「てっ、テイク2……テイク2お願い、します…っ!」
 震える指を2本立て、とにかく必死で解放を乞う。

 どうにかこうにか、窒息死だけは免れることが出来た那緒だが、翼の機嫌は完全に斜めになってしまったようだ。
 照れ隠しのつもりだったのだが、たしかに拗ねられても仕方がない。
「ごめん、本っ当にごめん」
 放り出されたマフラーの端を軽く払い、それを翼の首へと巻きつけながら、那緒は何度も謝った。
 ちょっと困ったような笑顔を浮かべ、本当はとても嬉しいんだと、けど恥ずかしくて、ちょっぴりふざけてしまったと。
 だから、本当にごめん。
 そしてありがとう。
「………仕方がないですね」
 まだ少し拗ねたままの表情で。
 けれど、ほんの少しだけ那緒に寄り添い直す翼。

 そんな他愛のないやりとりが、何だかとても幸せに感じられる。
 1本のマフラーに繋がれた、2人のあたたかなクリスマス。




イラストレーター名:Hisasi