●聖夜の恋人た……あれ?
今夜、ツァオは大切な彼……じゃなくて、相棒の蜘蛛童・ナナ公と一緒に過ごしていた。
クリスマスらしく、おそろいのサンタ帽を被って、晩餐のメニュー・あっつあつのチゲ鍋を一緒につついて、お腹を満たして。
からっと綺麗になるまでチゲ鍋を食べつくしたところで、ツァオは満を持して『ソレ』を運んできた。
「じゃじゃーん! ナナ公、特製ケーキも用意してあるヨ〜!」
そう言ってナナ公の前に差し出されたのは、クリスマスらしく(?)赤色のケーキ。
おや、ナナ公の様子が……?
「そんなに震えるくらい喜んでくれて、嬉しいヨー!」
きっと違う。
そこはかとなく、鼻をくすぐる刺激的な香り。
真っ赤に染まった生クリーム。
同じく、真っ赤な色に焼きあがったスポンジケーキ。
スポンジとスポンジの間に挟まっている真っ赤なジャムみたいなもの。
……なんだかちょっとツブツブした物が混ざっているようには見えるけど、でもたぶん、それはイチゴとか、そういう穏やかなものでは無くて……。
ナナ公は震えた。人間だったら泣いてたかもしれない。
そのくらい、2つの瞳ごと全身をふるふるさせて、でもって鋏角をガチガチとやりながら、ケーキとそれを持っているツァオを見上げている。
……た、べ、るの……?
そう言いたげにするかのような、ナナ公の様子に気付いてか気付かずか、ツァオはにっこり笑って。
「メリークリスマス! さあ、二人で一緒に食べるヨ〜」
……もし人間だったら、悲鳴が上がっていたかもしれない。
ケーキを切り分けながら、ツァオはちらっとナナ公を見る。
どうしたらいいのか。でもちょっぴり覚悟を決めたかのような、でもでも……そんな感じの顔をしているナナ公の姿に、くすっと笑みが漏れる。
それは、悪戯を仕掛けて楽しんでいる子供のように見えて。
……子供を可愛がる母親のようにも、見えて。
(「……こうして誰かと過ごす夜も、悪くないネ」)
ケーキを載せた2枚の皿を、それぞれの前に置いて。
ツァオは空いた手を伸ばすと、わしわしっとナナ公の頭を撫で回した。
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