正岡・寅彦 & 高雅・熾輝

●反撃成功っ!…なのかな…?

(「……チャンスは一瞬。寅彦君、一体どんな顔をするかな♪」)
 含みのある笑みを浮かべながら、熾輝が反撃の機会を窺っていた。
 熾輝は図書館で寅彦から勉強を教えてもらっていたが、あまりにも退屈な時間だったので、彼の話を聞くつもりもないようだ。
 その間も寅彦は熱心に勉強を教えており、熾輝がそんな事を考えているとは思っていない。
 寅彦はいつも熾輝に苦労させられている憂さを勉強を教える事で晴らしていたのだが、まったく彼女が話を聞いていなかったので、ようやく怪しいと思い始める。
「ほらほら、手が止まってるよ……」
 頬杖からゆっくりと顔を上げ、寅彦がジト目で彼女を叱りつけた。
(「……チャンス!」)
 その瞬間を狙って熾輝がチャンスとばかりに反撃を開始し、勢いよく寅彦に顔を近づけて、そのまま頬にキスをする。
「……って、わぁっ!?」
 いきなりこんな事をされるとはまったく予想していなかったため、寅彦が抵抗する余裕さえなくなって椅子を巻き込んだ。
 それでも、咄嗟に手を伸ばして熾輝の身体を支え、自分の身体が下になるような形で倒れ込む。
 そのせいで熾輝が寅彦を押し倒すような格好で倒れてしまい、派手な音を立てて周囲の注目を集める。
「いたたた……。突然、何するかなぁ、熾輝さんは……」
 しかし、寅彦は予想以上に彼女の顔が近くにあったため、そこまで言ったところで恥ずかしい気持ちに包まれて固まった。
「悪戯、せいこう〜〜〜〜♪」
 勝ち誇った様子で笑みを浮かべ、熾輝がえっへんと小さな胸を張る。
「えーと、その……どいてもらっても、いいかな?」
 視線のやり場に困りながら、寅彦が言葉を選んで囁いた。
 その途端、熾輝は我に返って自分の置かれている状況を把握し、一気に恥ずかしい気持ちに包まれて、まったく身動きが取れない。
 そのため、寅彦も余計に動く事が出来なくなり、困った様子でダラダラと汗を流すのだった……。




イラストレーター名:仮。