●初めてのクリスマス
人工の雪が降っているクリスマスツリーの下で、零夜はカリュアが来るのを待っていた。
今日は恋人達にとって、特別な日でもあるクリスマス。
クリスマスだからと言って、特に意識をした事はなかったが、職場の方で『クリスマスにはプレゼントを贈るものだ』と言われたので、何を贈ったら良いものかと悩んだ上で、紅十字のイヤリングと対なるものを渡そうと考えた。
「零夜兄っ!」
聞き覚えのある声が響く。
クリスマスツリーの下に立っていた零夜を見つけ、思わず駆け出す、カリュア。
カリュアは今年もクリスマスをひとりで過ごすものだと思っていた。
……零夜は仕事であまり家にいない。
クリスマスもきっと、仕事……。
そう思っていたので、一緒に過ごす事が出来ると知って、本当に嬉しかった。
「あんまり……、凝ったものじゃないけど」
激しく息を切らせつつ、カリュアが白いカードを渡す。
恥ずかしい気持ちもあったが、それよりもカードを渡したいと言う気持ちが勝った。
あまり装飾がないシンプルな白いカードには、彼女の文字で『今日だけでいいので、零夜兄のお姫様にしてください』とメッセージが添えられている。
零夜からは妹としてしか、見られていない事は分かっているが、せめて今日だけでも彼の特別になりたかった。
それに、彼女の性格的にも、普段からあまり甘えたりする事も出来ないので、せめて今日くらいは……。
そんな気持ちもカードに書かれたメッセージには込められている。
零夜は薄っすらと笑みを浮かべ、カードを開いてメッセージを読む。
メッセージに対する返事は、額にキス。
「……もう少し大きくなったらな」
彼女の頭をぽふぽふと撫で、零夜が軽く答えを返す。
残念ながら零夜の特別にはなけなかった。
それでも、一緒にいられるのだから、これほど幸せな事はない。
だからこそ、特別になれなくても、今日は思いっきり甘えようと思った。
| |