●夕暮れの凪
「……夕日が綺麗ですね」
丘の上の港が見える公園で、まきなが柵の傍で夕日を眺める。
ふたりで見る夕日はいつも以上に美しく、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「……だろ? ここから見える夕日は一味違うからな」
彼女と一緒に夕日を眺め、ガルズがゆっくりと柵に寄りかかる。
いつもは何気なく見ているので、それほど気にしていなかったが、こうやって夕日を眺めているのも悪くないと思った。
「それは、きっと……」
そこでまきなが口篭る。
本当は『ガルズさんと一緒にいるから、夕日がいつもよりも綺麗に見える』と言いたかったのだが、その言葉よりも恥ずかしさの方が勝ってしまい、口に出す事が出来なかった。
「……ん? 何か言ったか?」
そこでガルズが声をかける。
波の音のせいでよく聞こえなかったので、確認の意味も込めて問いかけた。
「な、なんでも、ありません!」
……答えられるわけが無い。
ガルズに見つめられているせいで、心臓がドキドキと高鳴っている。
例え答える事が出来たとしても、その言葉を口にするだけの勇気が無い。
「ちょっと気になるが……、まあいいか」
そのため、ガルズもあえて詳しくは聞かない事にした。
「あっ、あの……手……繋いでもいいですかっ?!」
勇気を出して、一歩前へ。
彼女の中ではこれが精一杯。
本当は緊張のあまり倒れそうになっているが、彼からの返事を貰うまでは、何とかして頑張らねばならない。
「……ああ、いいぜ」
そう言ってまきなと手を繋ぐ。
途端に、まきなの顔が赤くなる。
「こうやって、また来年も一緒にいられたらいいですね」
幸せいっぱいな表情を浮かべ、まきながニコリと微笑んだ。
「いや……、来年だけじゃなく、ずっとだ……」
そう言ってガルズがまきなの肩を抱き寄せる。
彼女の気持ちに応えるようにして、力強く……。
……今日の夕日は、いつも以上に輝いていた。
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